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代理権の範囲と制限

このページの最終更新日 2016年2月17日

▼ 代理権の範囲

代理人が本人のために法律行為を行ったとしても、その行為が代理人の権限(代理権)の範囲内に属していないときは、当然には本人に行為の効果は帰属しない。代理権の範囲外でなされた代理人の行為は、無権代理となる。

代理権の具体的な範囲がどのように定まるかについては、法定代理の場合と任意代理の場合とで異なる。

(1) 法定代理の場合

法定代理における代理権の範囲は、各々の種類の法定代理人について個別的に法定されている(例、親権者―824条、後見人―859条、不在者の財産管理人―28条)。権限の範囲が定められていない場合には、民法103条の定めるところによる。

(2) 任意代理の場合

任意代理における代理権の範囲は、まず、代理権の発生根拠である契約ないし代理権授与行為の解釈によって定まる。そして、それらの法律行為の解釈によっても代理権の範囲を明らかにできない場合には、103条の定めるところによって決まる。

(3) 代理権の範囲が定められていない場合

法によって代理権の範囲が定められていない場合や、当事者間の法律行為の解釈によって代理権の範囲を明確にすることができない場合には、民法103条が本人の財産管理について代理人がなしうる行為の範囲を定めている。

すなわち、権限の定めのない代理人(権限の範囲が不明確である場合も含む。)は、①保存行為(同条1号)、②利用行為および③改良行為(同条2号)のみを行う権限を有する。これらをまとめて管理行為と呼ぶ。管理行為は財産の現状や性質を変更しないでなしうる最大限の行為である。

管理行為の具体例は、次の表のとおりである。

保存行為

財産の現状を維持する行為

(例) 家屋の修繕、消滅時効の中断、腐敗しやすい物の処分、履行期が到来した債務の弁済、権利の登記、応訴

利用行為

財産の性質を変えない範囲内で収益を図る行為

(例) 家屋を賃貸する、現金を銀行に預金する

改良行為

財産の性質を変えない範囲内でその価値を増加させる行為

(例) 家屋に造作ぞうさくを施す、無利息の貸金を利息付きに改める

これらの行為が許されているのは、本人の財産を害するおそれがない行為だからである。勝手に家屋を売却したり、リスクある金融商品に投資したりするような財産の現状または性質を変更する行為は許されない。もっとも、腐敗しやすい物の処分や履行期到来の債務の弁済のように、厳密には処分行為であるが、本人の不利益になるおそれがない行為は、保存行為として許される。

〔参考〕戦災による損害回避の目的で家屋を売却換価する行為は、民法103条の保存行為にあたらないとした判例がある(最判昭28.12.28)。

〔参考〕財産の現状や性質を変更する行為を処分行為と呼ぶことがあるが、これは債権行為に対置される処分行為の概念とは異なる。

▼ 自己契約・双方代理

● 自己契約・双方代理の禁止

民法108条本文は、自己契約および双方代理について禁止している。自己契約、双方代理とは、それぞれ次のような行為を言う。

(1) 自己契約

代理人が自ら代理行為の相手方となって本人と自己との間に契約を結ぶことを自己契約と言う。たとえば、ある者AからA所有土地の売却を委託されたBが自らその買主(相手方)となってAとの売買契約を締結するような場合である。

自己契約
【図】自己契約

(2) 双方代理

同一人が当事者双方の代理人となって契約を結ぶことを双方代理と言う。たとえば、売主Aの代理人Bが同時に買主Cの代理人となってAC間の売買契約を締結するような場合である。

双方代理
【図】双方代理

(3) 民法108条の趣旨

民法108条が自己契約・双方代理を禁止しているのは、たとえば、目的物を不当な廉価で売買するといったように、自己契約においては代理人が自らの利益を図って本人に不利益を及ぼすおそれがあり、双方代理においてはもっぱら一方の当事者の利益のみを図るおそれがあるからである。このように、本条は、代理人一人が当事者双方の地位に立って、当事者間で利益が相反する(一方の利益は他方の不利益である)ような取引を行うことを禁止する。

108条は「代理人となることはできない」と規定しているが、それは、同条に違反してなされた代理人の行為が無権代理行為になるという意味であって、行為自体が無効となるという意味ではない。したがって、本人が後で追認することによって本人に行為の効果が帰属する(116条)。

● 自己契約・双方代理禁止の例外

次の二つの場合には、自己契約および双方代理が例外的に許容されている(108条但書)。

(1) 債務の履行

代金の支払いなどの債務の履行については、自己契約・双方代理が禁止されていない。すでに確定している権利義務関係の決済にすぎないので、本人の利益を害するおそれがないからである。

〔参考〕判例は、弁護士が登記権利者と登記義務者の双方を代理して登記申請することは、108条違反にならないとする(最判昭43.3.8)。

(2) 本人があらかじめ許諾した行為

本人があらかじめ許諾した行為についても自己契約・双方代理が禁止されていない。本人が承諾している以上、本人の利益を保護する必要がないからである。この例外は、民法108条が任意規定であることを意味している。

もっとも、本人があらかじめ許諾していたとしても公序良俗違反として無効となる場合もありうる。たとえば、賃貸借契約において将来紛争が生じた場合に備えて賃貸人の代理人が賃借人の代理人を兼務する旨の特約などは許されない。

● 民法108条と利益相反行為の規制

(1) 法定代理の場合

法定代理のうち親権や後見については、法定代理人である親権者・後見人が本人との利益が相反する行為(利益相反行為)を行うに際して、特別に親権者・後見人以外の者を本人の代理人として立てることが要求されている(826条、851条4号、860条)。これに反して法定代理人がした代理行為は、無権代理行為となる。

〔考察〕民法108条と利益相反行為の禁止  民法108条は定型的に自己契約・双方代理にあてはまる契約を禁止の対象としているが、利益相反行為の禁止はそれ以外の契約や単独行為、親権者の同意権の行使も対象に含まれる。ただし、親権者から子へ贈与する契約のように、本人の不利益にならない行為は、利益相反行為に該当しない(大判昭14.3.18)。

(2) 任意代理の場合

任意代理の場合には、民法108条によって自己契約または双方代理に該当する行為が禁止されているだけであって、法定代理のように当事者間の利益相反行為を規制する規定が存在しない。

しかし、実質的に考えるならば、本条は、代理人が利益相反行為を行うことを禁止する趣旨であると理解することができる。そのように考えると、代理人の行為が形式的には自己契約・双方代理に該当する行為でなくても、真に利益相反が存在する場合であるならば、そのような行為は本条によって禁止すべきであると言える(108条の拡張解釈)。

逆に、形式的には自己契約・双方代理に該当する行為であっても、真に利益相反が存在しない場合には、本条を適用すべきではない(108条の縮小解釈)。

〔参考〕大判昭7.6.6  YがXに家屋を賃貸するにあたり、将来紛争が生じた場合に貸主Yが借主Xの代理人を選任しうる旨の委任(白紙委任状の交付)がなされたが、後日紛争が生じた際に、Yは自らXの代理人を選任してその者と裁判上の和解をしたという事案。このような委任(代理権授与)は、自己契約と大差がないゆえに、108条の趣旨に準拠して無効であり、和解契約は本人Xの追認がなければXに対して効力を生じないと判示した。

▼ 共同代理

たとえば、代理人が復代理人を選任した場合には、同一の事務について本人の代理人が複数人存在する状況が生じる(広義の共同代理)。代理人と復代理人とは、それぞれが独立して本人との間に代理関係を有し、単独で代理行為を行うことができるのが原則である(単独代理の原則)。

しかし、法律の規定(例、818条3項―共同親権)や当事者間の特約によって数人の代理人が共同して代理行為をすべきであるとする制限が課されている場合もある。そのような場合には、代理人のうちの一人が勝手に単独で代理行為をすることができない。このように、複数の代理人が共同して代理行為をすべき旨の制約が存在する場合を共同代理(狭義)と呼ぶ。

共同代理の定めの存在は、各代理人にとっては代理権の制限となる。すなわち、代理人の一人が単独で代理行為をしても、権限外の行為であるから無権代理となり、本人に効果が帰属しない。

 復代理

▼ 代理人の権限濫用

たとえば、本人所有の不動産を売却する権限を有する代理人がその不動産を売却したが、代理人が相手方から受領した代金を着服してしまったというケースを考える。このケースでは、代理人がおこなった代理行為は客観的には代理権の範囲内に属する行為であるが、代理人の主観において自己または第三者の利益をはかる意図がある。このような場合を代理人の権限濫用あるいは代理権の濫用と呼ぶ。

代理人の権限濫用は、客観的には代理権の範囲内で行為がなされた場合であるから、代理の原則にしたがえば、本人に代理人の行為の効果が帰属しそうである。しかし、そうすると、本人は代理人から受け取るはずの代金を得られないにもかかわらず、不動産を相手方に明け渡す義務を負うことになる。本人保護という観点からは、この場合に代理行為の効力を維持しあるいは本人にその効果を帰属させるべきではない。一方で、取引の安全という観点からは、なるべく本人へ効果帰属を否定するべきではない。どのような法律構成ないし要件のもとで妥当な結論を導くかが問題となるが、この点に関して、次のようにいくつかの見解がある。

(1) 93条ただし書類推適用説(判例)

代理人の権限濫用行為の効果は本人に帰属するが(有権代理)、相手方が代理人の権限濫用の意図を知り、または知ることができた場合には、民法93条ただし書の類推適用によって代理行為が無効となるとする見解である。

この見解は、取引の安全のために代理行為を原則として有効であるし、ただ、相手方が代理人の権限濫用の意図につき悪意または有過失であることを本人が主張・立証した場合には、相手方を保護する必要がないので、代理行為を無効とすべきであると主張する。そのような結論を導くために、心裡留保に関する93条の規定を援用するのである。

しかし、代理人の権限濫用の場合には、代理人に代理行為の効果を本人に帰属させる意思があるのであるから、意思の不存在である心裡留保との構造的な類似点があるわけではない。

判例は、任意代理と法定代理のいずれの場合についても、93条ただし書を類推適用する(最判昭42.4.20―任意代理、最判平4.12.10―法定代理)。

〔参考〕代理権濫用の判例

(1) 最判昭42.4.20

Y会社の代理権を有する主任Aが、仕入商品を転売して差益を得る目的で、Y名義でXから商品を仕入れる契約をしたが、XはAの権限濫用の事実を知っていたという事案において、民法93条ただし書を類推して、本人YはAの行為について責に任じないと判示した。

(2) 最判平4.12.10

親権者Aが子Xを代理して子が所有する不動産を第三者Yの債務の担保に供したという事案である。一般論として親権の濫用について民法93条ただし書の類推適用を肯定したが、親権者の代理行為は、親権者と子との利益相反行為にあたらないかぎり、親権者の広範な裁量にゆだねられているとして、本件の行為は親権者による代理権の濫用にはあたらないと判示した。

(2) 無権代理説

代理人には本人の利益のために行動する義務(忠実義務)が存在するのであって、およそその義務に違反する代理行為は無権代理となると解する見解である。この見解によれば、相手方は表見代理が成立する場合にのみ、本人に対して責任を追及することができる。

この見解に対しては、①代理人の忠実義務は、本人と代理人との関係における内部的な義務にすぎず、相手方との関係で本人への代理行為の効果の帰属を否定する根拠にはなりえない、②代理人の権限濫用の意図といった主観的な事情は外部からはわかりにくく、そのような事情によって代理行為の効果帰属が左右されるのは取引の安全を害する、といった批判がなされる。

(3) 信義則説

相手方が代理人の権限濫用について悪意または重過失である場合に、信義則を根拠として、相手方は代理行為の有効性を本人に対して主張することができないとする見解である。この見解は、93条ただし書類推適用説と同様に代理行為の効力を問題とするのであるが、類推説が相手方の悪意または軽過失を効力否定の要件とするのに対して、相手方に重過失がないかぎり代理行為は有効であると主張する。

相手方が軽過失の場合は保護されることになり、それだけ相手方保護の範囲が広がることになるが、心裡留保の場合(相手方の軽過失を要件)とのバランスを失するという批判がある。

〔考察〕法定代理の場合における代理権濫用  上述のように、判例は、代理権の濫用に関して法定代理の場合と任意代理の場合とで区別せず、一律に民法93条ただし書を類推適用する立場である。これに対して、学説上は、法定代理の場合には本人保護を重視すべきであることを理由に、相手方保護の要件を厳格にしたり、全面的に効果不帰属としたりするなど、できるだけ本人が責任を負わないような解釈をする傾向がある。しかし判例は、逆に、法定代理における代理権濫用の認定そのものを厳しくする(前出最判平4.12.10)。

問題演習(国家試験過去問題)

国家試験過去問題のなかから理解度チェックに役立つ良問を掲載しています。

 正誤問題

(司法平18-1-1 → 平成18年司法試験民事系第1問選択肢1)

(1) 売買契約を締結する権限を与えられて代理人となった者は、相手方からその売買契約を取り消す旨の意思表示を受ける権限を有する。(司法平26-3-ア)

(2) Aの代理人として土地を購入する権限を与えられたBが、Cから甲土地を売却する権限を与えられてCの代理人にもなり、A及びCを代理してAC間の甲土地の売買契約を締結した場合、Bが双方代理であることをA及びCの双方にあらかじめ通知したときは、AC間に売買契約の効力が生ずる。(司法平27-3-エ)

(3) 不動産の売買契約に基づく所有権移転登記申請手続について、司法書士が売主及び買主の双方を代理することは、双方代理の禁止に関する規定に違反しない。(司法平19-2-1)

(4) 自己契約及び双方代理は、債務の履行行為及び本人があらかじめ許諾した行為を除き原則として効力を生じないが、本人の保護のための制度であるから、無権代理行為として、本人が追認すれば有効になる。(司法平20-6-2)

(5) 代理人が自己又は第三者のために代理権を濫用しても、それが客観的に代理権の範囲にあり、相手方が代理人の意図を知らず、知らないことに過失がないときは、代理人がした意思表示は本人に帰属する。(司法平20-6-3)

(6) 判例によれば、親権者が子の財産を第三者に売却する行為を代理するに当たって、親権者がその子に損害を及ぼし、第三者の利益を図る目的を有していたときは、その子の利益に反する行為であるから、無権代理となる。(司法平23-4-エ)

(7) 権限外の行為の表見代理の規定は、自己の利益を図るためにその権限を行使した場合にも適用することができる。(司法平18-25-)

(8) 原材料甲を仕入れる代理権を本人から付与された者が、その代理権を利用して利益を図ろうと考え、本人を代理して第三者から甲を買い受け、これを他に転売しその利益を着服した場合、権限外の行為についての表見代理に関する規定が類推され、第三者は、本人に対し、甲の代金の支払を求めることができる。(司法平25-4-イ)

 正解

(1) 正  (2) 誤  (3) 正  (4) 正  (5) 正  (6) 誤  (7) 誤  (8) 誤

民法総則のカテゴリー

法人法律行為意思表示代理無効と取消し条件と期限期間時効

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