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無権代理人の責任

このページの最終更新日 2015年12月17日

【目次】

民法117条の趣旨

117条の責任の内容

117条の責任の要件

無権代理人の責任と表見代理との関係

問題演習

コメント

▼ 民法117条の趣旨

代理人と称して取引をした者が実は代理権を持たず、かつ、本人の追認を得られなかった場合、その取引は無権代理として扱われる。この場合において、相手方は表見代理の成立を主張して本人に対して責任を追及することができるが、民法はさらに、無権代理人に対して責任を追及することをも認めている(117条)。

本来ならば、無権代理人は不法行為責任(709条)を負うだけであるが、それだけでは相手方保護のために不十分であるので、民法は無権代理人に特別の責任を負わせることとしたのである。この責任は、相手方の保護、ひいては代理制度の信用を維持するための責任であるから、無過失責任であると解されている(後掲最判昭62.7.7)。

▼ 117条の責任の内容

無権代理人の責任は、相手方に対して取引の履行責任または損害賠償責任を負うことである。いずれの責任を負うかは、相手方の選択するところによる(117条1項)。

相手方が履行責任を選択した場合、取引上の権利義務関係が無権代理人と相手方との間に発生する。すなわち、相手方は無権代理人に対して取引上の履行(目的物の引渡しなど)を請求することができる反面、無権代理人に対して義務(代金支払いなど)を負うことになる。無権代理人が目的物を入手できないときは、履行不能の問題となる。

相手方が損害賠償責任を選択した場合、相手方は履行利益(契約の履行によって得られたであろう利益)の賠償を請求することができる(最判昭32.12.5)。

▼ 117条の責任の要件

民法117条の責任が認められるためには、相手方は、無権代理人が他人の代理人として自己と契約したことを主張・証明するだけでよい。これに対して、自称代理人は、以下のいずれかの事実を証明することによって無権代理人の責任を免れることができる(消極的要件または免責要件)。

(1) 代理権または追認の存在

代理人が代理権を有していたとき、または、本人の追認がなされたときは、無権代理ではないのであるから、代理人は責任を負わない。これらの事実の証明責任は、相手方ではなく、代理人が負う。

(2) 相手方の取消権の行使

相手方が契約を取り消すことによって、無権代理人の責任の前提となる無権代理行為もなかったことになる。この事実は、無権代理人が証明しなければならない。

(3) 相手方の悪意または有過失

民法117条2項は、無権代理人の責任の要件として、相手方が代理権の不存在について善意・無過失であることを要求している。同条の責任は相手方の信頼を保護するためのものであるから、相手方が無権代理であることを知り、または、知らなかったことについて過失があった場合にまで相手方を保護する必要はないからである。無権代理人は、相手方の悪意または有過失を証明することによって免責される。

なお、同項の「過失」を重過失と解釈する見解もあるが、判例・通説は軽過失の意味に解する(後掲最判昭62.7.7)。

(4) 無権代理人が制限行為能力者であること

無権代理人は、行為時に自分が制限行為能力者であったことを証明することによって責任を免れる(117条2項)。無権代理人が制限行為能力者であった場合には、その者を保護する必要があるからである。制限行為能力者であっても、法定代理人の同意があるときは無権代理人の責任を免れることはできない。

関連事項

▼ 無権代理人の責任と表見代理との関係

無権代理人の責任と表見代理との関係について、二つの異なる考え方がある。

(1) 補充的責任説

一つは、無権代理人の責任は表見代理が成立しない場合に補充的に認められる責任であるとする考え方である(補充的責任説)。この考え方は、117条2項の「過失」を重過失と解する。無権代理人の責任と表見代理とはともに相手方の善意・無過失を要件とするが、相手方に過失があった場合に表見代理だけではなく、無権代理人の責任も認められないとすると117条の適用場面がほとんどなくなってしまうからである。

(2) 選択責任説(判例・通説)

もう一つの考え方は、本人の表見代理責任と無権代理人の責任とは互いに独立した制度であって、相手方はどちらを追及するかを自由に選択できるとするものである(選択責任説)。相手方は、表見代理が成立する場合であっても、無権代理人の責任を追及することができるのであって、無権代理人は表見代理が成立することを主張して自己の責任を免れることはできない(最判昭62.7.7)。本人に対する表見代理の主張と無権代理人の責任追及は、並行して行うこともできる。

この考え方は、117条2項の「過失」を通常の過失(軽過失)と解する。したがって、過失ある相手方は、本人の表見代理責任と無権代理人の責任のどちらも追及することができない。

▼ 問題演習

国家試験過去問題のなかから理解度チェックに役立つ良問を掲載しています。

 正誤問題

(司法平18-1-1 → 平成18年司法試験民事系第1問選択肢1)

(1) 無権代理人が本人の追認を得ることができなかったときは、代理権の不存在につき善意無過失の相手方は、無権代理人に損害賠償を請求することができる。(司法平24-5-4)

(2) 他人の代理人として契約をした者が無権代理人であり、かつ、本人の追認を得ることができなかった場合において、相手方の選択により無権代理人として履行に代わる損害賠償義務を負うときは、当該損害賠償義務は不法行為による損害賠償責任であるから、無権代理行為の時から3年の時効消滅にかかる。(司法平25-6-ア)

(3) 無権代理行為の相手方は、表見代理の主張をしないで、無権代理人に対し履行又は損害賠償の請求をすることができるが、これに対し無権代理人は、表見代理の成立を主張してその責任を免れることができる。(司法平23-3-ウ)

 正解

(1) 正  (2) 誤  (3) 誤

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