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民法94条2項の類推適用

このページの最終更新日 2015年9月7日

▼ 不動産取引における94条2項類推適用

● 不実登記に対する信頼保護

不動産の登記がなんらかの事情で真実の権利者AではなくBの名義になっている場合に、第三者Cがそのような登記を信頼して登記名義人Bと取引したとしても、Cは権利を取得できないのが原則である。真実の権利関係と異なる外形(公示方法)が存在する場合に、その外形を信頼して取引した者は外形どおりの権利を取得できるという効力を公信力と言うが、不動産の登記にはこの公信力がないからである。(動産の占有には公信力がある。192条)

そこで、真実の権利関係と異なる登記(不実登記)に対する信頼を保護するための理論として判例によって展開されたのが、民法94条2項類推適用の法理である。同条項は虚偽表示によって作出された外観を信頼した第三者を保護するための規定であるが、この規定を相手方との通謀や虚偽の意思表示が存在しない場合にまで類推することによって、不実登記に対する信頼の保護を図ることがなされている。このように、94条2項類推適用は、登記に公信力がないことを不完全ながら補うことによって取引の安全を図るという重要な機能を果たす。

● 民法94条2項と権利外観法理

民法94条2項は、いわゆる権利外観法理を背景にもつ規定であると考えられている。権利外観法理(表見法理)とは、真実の権利関係と異なる外観が存在する場合において、真実の権利者に虚偽の外観作出についての帰責性があるときには、真実の権利者の権利を犠牲にしてその外観を信頼した第三者を保護しようという考え方である。不動産取引の安全を図る必要がある場面で94条2項が(類推)適用されるのは、実質的にはこの権利外観法理を適用することを意図している。

94条2項が権利外観法理の現れであるとすると、その類推適用にあたっては、①虚偽の外観の存在、②外観作出についての権利者の帰責性、③第三者の外観に対する信頼という三つの要件を具体的に検討しなければならない。後述するように、これらの要件は、94条2項が類推適用されるすべての場合について同じであるわけではない。

▼ 94条2項類推適用の判例

不実登記の外観作出に対する権利者の関与のしかたはさまざまであるが、大別すると、権利者に外観に対応した意思が存在している意思外形対応型と、権利者に外観に対応する意思がない意思外形非対応型とに分けることができる。そして、両類型における権利者の帰責性の程度には差があり、その差に応じて第三者に要求される主観的要件も異なったものとなっている。

● 意思外形対応型の判例

不実登記の外観に対して、真実の権利者にその外観に対応する意思が存在する場合が意思外形対応型の類型である。この類型は、虚偽の外観全体が権利者の意思にもとづいて作出されているか、または権利者の承認があるという点において権利者の帰責性が大きい。それに対応して、第三者が保護されるための主観的要件も善意だけでよく、過失がなかったことまでは要求されない。

 最判昭29.8.20

民法94条2項の類推適用を最初に認めた判例である。不実の所有権取得登記が不動産の買主Aの意思にもとづいてなされた場合には、同条項を類推して、Aは登記名義人が実体上所有権を取得しなかったことをもって、善意の第三者に対抗することができないと判示した。

 最判昭45.7.24

登記名義人の承諾の有無は、第三者の保護の程度に影響しないとした判例である。不動産の買主Aがその子Bの名義で移転登記をしたが、その後、Bがその不動産を第三者に売却したという事案において、不実登記について登記名義人の承諾がない場合においても、不実の登記の存在が真実の所有者の意思にもとづくものである以上、94条2項を類推適用すべきであると判示した。

 最判昭45.9.22

不動産の所有者AはBが勝手に自己名義に登記を移転した事実をその直後に知ったが、その後Bと結婚して不実の登記を抹消することなく年月を経過し、また、Aは銀行との間で貸付契約を締結した際、B名義のままで根抵当権設定登記をした。Bが第三者Cに不動産を売却して移転登記をすませた後に、AがCに対して移転登記の抹消を請求した。本判決は、不実の所有権移転登記の経由が所有者の不知のあいだに他人の専断によってされた場合でも、所有者が不実の登記を知りながらこれを存続せしめることを明示または黙示に承認していたときは、94条2項を類推適用し、所有者は善意の第三者に対して登記名義人が所有権を取得していないことをもって対抗することをえないと判示した。

● 意思外形非対応型の判例

真実の権利者自身が不実登記の外観作出に関与してはいるが、他人の背信的行為によって権利者の意図したものとは異なる外観が作り出された場合が、意思外形非対応型の類型である。この場合、権利者の意思と虚偽の外観とは対応していないのであるから、意思外形対応型の場合とは権利者の帰責性が異なり、同じ論理で第三者を保護することはできない。判例は、民法94条2項と110条を併用することによって第三者を保護する。(権利者の意図しない外観が他人の背信的行為によって作り出された点が、本人が与えた権限を逸脱して代理行為がなされた場合と類似している。)そして、第三者が満たすべき主観的要件として、意思外形対応型のように善意だけでは十分とせず、無過失であることまで要求する。

 最判昭43.10.17

不動産の所有者AがBに取引上の信用を得させるために売買予約を仮装して所有権移転請求権保全の仮登記手続きをしたが、BがAの印鑑を偽造して仮登記を本登記に替えて第三者Cに不動産を譲渡してしまったという事案において、仮登記の外観を仮装した者(A)がその外観にもとづいてされた本登記を信頼した善意無過失の第三者(C)に対して責に任ずべきことは、民法94条2項、110条の法意に照らし、外観尊重および取引保護の要請というべきと判示した。

 最判昭45.11.19

Aから土地を買い受けたBが、所有権保全の仮登記手続をすべきところ、(登記手続を委任した司法書士が)抵当権設定登記および所有権移転請求権保全の仮登記をした後に、Aから第三者Cへ当該不動産の所有権移転登記がなされた。その後、CはAの債務の弁済供託をしてBに対して登記の抹消を請求したという事案。本判決は、①の判例の趣旨からみて、真実の所有者Bは、善意無過失の第三者に対し、登記が実体上の権利関係と相違していることを主張しえないと判示した。

問題演習(国家試験過去問題)

国家試験過去問題のなかから理解度チェックに役立つ良問を掲載しています。

 正誤問題

(司法平18-1-1 → 平成18年司法試験民事系第1問選択肢1)

(1) AがBと通謀してA所有の甲土地につきAB間で売買予約がされた旨仮装し、Bへの所有権移転登記請求権保全の仮登記をした後、Bが偽造書類を用いて仮登記を本登記にした上で、善意無過失のCに甲土地を売却し、Cへの所有権移転登記をした場合、Cは、Aに対し、甲土地の所有権をCが有することを主張することができる。(司法平27-4-2)

 正解

(1) 正

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