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虚偽表示

このページの最終更新日 2015年9月21日

▼ 虚偽表示とは

表意者が相手方と通謀して真意でないこと(内心的効果意思のないこと)を知りながらする意思表示を虚偽表示と言う。通謀虚偽表示と言うこともある。心裡留保も虚偽表示もともに表意者が虚偽の(真意でない)意思表示をするという点で同じであるが、心裡留保の場合は表意者が単独で虚偽の意思表示を行うのに対して、虚偽表示の場合は相手方と通謀して行うという点に違いがある。

虚偽表示の代表例として挙げられるのが、いわゆる財産隠し(仮装譲渡)の事例である。たとえば、Aが自己所有の不動産に対する債権者からの差押えを逃れるために、仲間のBと通じて、A所有の不動産をBに売却したように偽装して、登記名義もBに移転するというような場合である。A、Bをそれぞれ仮装譲渡人仮装譲受人と言う。この場合、AB間でなされた仮装の売買契約の意思表示は、真に権利関係の変動を生じさせる意図(内心的効果意思)がないのであるから、虚偽表示にあたる。

▼ 虚偽表示の効力

● 当事者間の効力は無効(94条1項)

虚偽表示は、表示行為に対応する内心的効果意思を欠き、また、当事者(表意者・相手方)間においてはその効力を認める意味がない。したがって、虚偽表示の効力は、少なくとも当事者間においては、無効である(94条1項)。無効とされると、当事者間ではもはや債務の履行を請求することができなくなり、すでに履行されていた場合には、目的物の返還や登記の抹消を請求することができるようになる。

● 善意の第三者に対しては無効を主張できない(94条2項)

虚偽表示の効力は、当事者間では無効であるが、第三者に対する関係ではどうなるか。たとえば、不動産所有者Aから虚偽表示によってその不動産を譲り受けた者B(仮装譲受人)が、さらにその不動産を第三者Cに譲渡したという場合、A(仮装譲渡人)はCに対して虚偽表示であることを理由として無効を主張することができるか。

この点に関して、民法は、虚偽表示による無効は「善意の第三者」に対して主張する(対抗する)ことができないと定めている(94条2項)。真実の権利者を犠牲にして取引の安全をはかる趣旨である。したがって、Cが「善意の第三者」にあたるときは、AはCに対して無効を主張することができない。この場合、当事者以外の者からの無効の主張であっても認められない。

〔解説〕94条2項と権利外観法理  民法94条2項は、いわゆる権利外観法理を具体化した規定であると考えられている。権利外観法理(表見法理)とは、権利に関する虚偽の外観を作り出した権利者は、その外観を信頼して取引を行った者に対して、外観どおりの責任を負うという考え方である。94条2項のほかにも、民法その他の法律には権利外観法理の適用例と考えられる規定が存在する(96条3項、110条など)。94条2項は、権利外観法理を適用するべき場面において類推適用される。実際、不実の登記に対する信頼を保護する必要がある場合に本条項の類推適用が多用されている。登記に公信力がないという弱点をもつ現行制度下において、94条2項の類推適用が取引の安全のために果たす役割は重要である。

〔参考〕当事者間において虚偽表示の撤回があったとしても、虚偽表示の外形を取り除かないかぎり、その外形を信じてその撤回を知らずに取引した善意の第三者には対抗しえない(後掲最判昭44.5.27)。

▼ 94条2項によって保護される第三者

● 94条2項の「第三者」の範囲

民法94条2項は虚偽表示の場合において第三者の信頼を保護するための規定であるが、同条項の「第三者」とは、虚偽表示の当事者またはその包括承継人(相続人など)以外の者であって、虚偽表示の目的について新たに法律上の利害関係を有するにいたった者を指す。

判例によると、虚偽表示によって不動産を譲り受けた者(仮装譲受人)からその不動産を取得した者や、その不動産上に抵当権の設定を受けた者などは「第三者」に該当する。「第三者」からさらに目的物を取得した者(転得者)もまた94条2項の「第三者」に含まれる(後掲最判昭45.7.24)。仮装譲受人の単なる一般債権者は「第三者」にはあたらないが、虚偽表示の目的物を差し押さえた者は「第三者」にあたるとされる。

〔参考〕最判昭57.6.8は、Aの土地がBに仮装譲渡された後に、Bがその土地上に自ら所有する建物をCに賃貸したという事案で、Cを94条2項の「第三者」にはあたらないと判示した。

● 94条2項の「善意」の意味

民法94条2項の「善意」とは、虚偽表示であることを知らないことである。「善意」であるかどうかは、第三者が利害関係を有するにいたった時点を基準にして判断する。

〔参考〕94条2項の第三者の善意・悪意は、同条項の適用の対象となる法律関係ごとに第三者が利害関係を有するにいたった時期を基準として決定される(最判昭55.9.11―転抵当権の設定を受けた時は善意であるが、差押命令を得た時点では悪意であった事案)。

第三者は、単に虚偽表示を知らなかったというだけでなく、知らなかったことについて無過失であることも要求されるかという問題がある。判例は、条文の文言どおりに善意でさえあれば過失の有無を問わないとする(大判昭12.8.10)。学説は、無過失を要求する説と不要とする説とに分かれる。必要説は、表意者(権利者)の権利を犠牲にした上で第三者を保護する以上、その第三者の信頼が正当である場合にかぎり保護すべきであると主張する。これに対して、不要説は、表意者の帰責性の強さを理由に、第三者は過失があっても保護されると主張する。

「善意」であったことは、第三者に主張・立証する責任がある(最判昭35.2.2)。

● 第三者が保護されるには登記が必要か

Aがその所有する不動産を虚偽表示によってBに譲渡した後に、その不動産がBからさらに善意の第三者Cへと譲渡された場合において、Cが保護されるためには登記名義がCに移転していることが必要かという問題がある。

この場合に対抗要件としての登記が必要であるだろうか。第三者保護の要件として対抗要件としての登記が要求されるのは、権利を主張し合う者どおしが対抗関係に立つ場合にかぎられる(177条)。AB間の譲渡は虚偽表示であって無効であるが、Cが善意であるためにCに対してその無効を主張することができず、したがって、A→B→Cと順当に権利が移転したものとみなされることになる。その結果、AはCとの関係では権利を有しない者として扱われることになるから、AとCとは対抗関係に立たない。よって、C(第三者)が保護されるには、対抗要件としての登記は不要である。判例も、第三者に登記がないことを理由に第三者の権利取得を否定することはできないとする(最判昭44.5.27)。

権利保護資格要件としての登記の要否については、詐欺の場合における議論を参照してほしい。

〔考察〕上述の事例において、Cが登記を具備する前にAが不動産を他人Dに譲渡してしまった場合はどうなるか。AB間の譲渡は虚偽表示であるから、Dに対する関係でも無効である。しかし、Cに対する関係では民法94条2項が適用されるから、誰からも(Dからも)無効を主張することができない。その結果、この場合については、不動産の権利はA→B→CとA→Dというように二重譲渡された場合と同視することができる。したがって、CとDは対抗関係に立ち、いずれか先に登記を具備したほうが不動産の権利を取得することになる(最判昭42.10.31)。

▼ 第三者からの転得者の扱い

前述したように、第三者から目的物を取得した者(転得者)も、民法94条2項の「第三者」に含まれる。したがって、たとえ仮装譲受人と直接取引した第三者Cが虚偽表示につき悪意であったとしても、そのCからの転得者Dは、善意であるかぎり、同規定による保護を受けることができる(最判昭45.7.24)。

それでは、逆に、直接の第三者Cが善意で、転得者Dが悪意である場合にはどのように考えればよいか。権利の移転を絶対的に考えるか、それとも、第三者ごとに相対的に判断するかという二つの異なったアプローチのしかたがある。

① 絶対的構成(判例)

まず、Cは善意の第三者であるから、94条2項によって保護されることは問題ない。よって、Cは権利者となる。そうすると、DがCから権利を取得する行為は正常な権利の移転であるから、Dが虚偽表示について悪意であったとしても、Dは権利を取得できることになりそうである。このように、虚偽表示の目的である権利が移転する過程で善意の第三者が出現すると、そのときに絶対的に権利の移転が確定して、転得者はたとえ悪意であっても権利者として保護されるとする考え方を絶対的構成と呼ぶ。判例は、この考え方に立つ(大判昭6.10.24)。

② 相対的構成

一方で、94条2項が第三者の信頼を保護する規定であることを重視する考え方もある。真の権利者を犠牲にすることになる以上、たとえ善意の第三者からの権利取得であっても、悪意の転得者は保護すべきではないと考えるのである。このような考え方は、個々の「第三者」ごとに相対的に権利保護の必要性を判断することになるので、これを相対的構成と呼ぶ。

▼ 民法94条の適用範囲

(1) 単独行為

民法94条は、相手方のある単独行為にも適用される。たとえば、相手方と通謀して行った契約の解除に本条を適用した例がある(最判昭31.12.28)。

相手方のない単独行為については、関係者との通謀があるときに本条を類推適用する場合がある(最判昭42.6.22―他の共有者と通謀してなされた虚偽の持分権放棄)。

(2) 要物契約

消費貸借契約のような要物契約は、物の授受がないかぎり契約が成立しない。しかし、虚偽表示によって要物契約の外形が作出された場合には、物の授受がなくても94条2項が適用される(大判昭8.9.18―消費貸借契約について適用肯定、大判昭6.6.9―質権設定について適用肯定)。

(3) 身分行為

身分行為については本人の意思を尊重すべきであるから、真意にもとづかない身分行為は無効である。善意の第三者に対しても無効の主張を制限するべきではなく、94条2項を適用する余地もない。

問題演習(国家試験過去問題)

国家試験過去問題のなかから理解度チェックに役立つ良問を掲載しています。

 1.多肢選択問題

 虚偽表示に当たる法律行為がされた場合における次のアからオまでの者のうち、判例の趣旨に照らし「相手方と通じてした虚偽の意思表示の無効を対抗することができない第三者」に該当するものを組み合わせたものは、後記1から5までのうちどれか。

ア.虚偽の意思表示により目的物を譲り受けた者からその目的物について抵当権の設定を受けた者

イ.土地の賃借人が所有する地上建物を他に仮装譲渡した場合の土地賃貸人

ウ.財産の仮装譲渡を受けた者の相続人

エ.虚偽の意思表示により譲り受けた目的物を差し押さえた仮装譲受人の一般債権者

オ.土地の仮装譲受人から当該土地上の建物を賃借した者

1.アウ 2.アエ 3.イエ 4.イオ 5.ウオ

(平成21年司法試験短答式民事系第4問)

 2.正誤問題

(司法平18-1-1 → 平成18年司法試験民事系第1問選択肢1)

(1) 当事者が相談の上で売買契約を偽装した場合、買主の相続人が偽装の事実を知らなかったとしても、売主はこの者に対して意思表示の無効を主張することができる。(司法平19-1-5)

(2) Aは、その所有する甲土地についてBと仮装の売買契約を締結し、その旨の所有権移転登記をした。その後、Bがこの事情を知らないCに甲土地を売却した場合、BからCへの所有権移転登記がされていないときでも、Aは、Cに対し、AB間の売買契約の無効を主張することができない。(司法平27-2-1)

(3) Aは、その所有する甲土地についてBと仮装の売買契約を締結し、その旨の所有権移転登記をした。その後、Bがこの事情を知らないCから500万円を借り入れたが、その返済を怠ったことから、Cが甲土地を差し押さえた場合、甲土地の差押えの前にCがこの事情を知ったとしても、Aは、Cに対し、AB間の売買契約の無効を主張することができない。(司法平27-2-2)

(4) AがBと通謀してA所有の甲土地につきAB間で売買契約がされた旨仮装し、Bへの所有権移転登記をした後、Bが甲土地をCに売却した場合、Aは、CがAB間の売買契約が虚偽表示であることを知っていたことを立証しなければ、Cに対し、甲土地の所有権をAが有することを主張することができない。(司法平27-4-3)

(5) 仮装の売買契約の売主に対して金銭債権を有する者が善意で売買代金債権を差し押さえて取立訴訟を提起した場合、仮装の買主は、売買契約が虚偽表示であることを証明すれば、請求棄却判決を得ることができる。(司法平18-32-4)

 正解

1. 2

2.(1) 正  (2) 正  (3) 誤  (4) 誤  (5) 誤

民法総則のカテゴリー

法人法律行為意思表示代理無効と取消し条件と期限期間時効

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