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錯誤による意思表示

このページの最終更新日 2015年9月20日

【目次】

錯誤とは

〔考察:錯誤の理解〕

錯誤の態様

〔考察:限界事例〕

民法95条の錯誤

1 法律行為の要素に関する錯誤

〔参考:要素の錯誤の例〕

2 動機の錯誤の扱い

〔考察:一元的構成〕

錯誤無効の主張

1 表意者からの無効主張

〔解説:錯誤無効の要件〕

〔参考:相手方が悪意の場合〕

2 相手方・第三者からの無効主張

〔解説:取消的無効〕

〔参考:債権者代位権にともなう錯誤無効の主張〕

3 共通錯誤

民法95条の適用範囲

〔参考:民法95条の特則〕

錯誤と瑕疵担保責任との関係

問題演習

コメント

▼ 錯誤とは

錯誤とは、意思と表示の不一致を表意者が知らないことを言う。心裡留保と比較すると、表示行為に対応する内心の意思が存在しないという点で同じであるが、錯誤はその不一致を表意者自身が認識していないという点で異なっている。

民法は、錯誤を意思の不存在として扱い、意思主義の立場から、法律行為の要素に錯誤があった場合の意思表示の効力を無効であると規定する(95条本文)。

〔考察〕錯誤の理解

伝統的な錯誤理論(判例理論)によると、民法95条の錯誤は、心裡留保や虚偽表示と並ぶ意思の欠缺(意思の不存在)の一種として理解される。すなわち、表示行為に対応する内心的効果意思が存在しない場合(表示行為の錯誤)が本条にいう錯誤であって、効果意思を導く動機の過程で認識の誤りや不注意があったにすぎない場合(動機の錯誤)は本条の錯誤にはあたらないとする。判例上も、動機の錯誤の場合には、例外的に本条が適用されうるにすぎない。しかし、現在の学説は、動機の錯誤と表示行為の錯誤とを区別せず、一元的に本条の錯誤として取り扱う。この考え方によれば、錯誤は、「表示と真意との食い違い」であるとか、「情報不足や不注意などから不本意な意思表示をすること」であるというように広く定義される。

関連事項

▼ 錯誤の態様

錯誤は、意思表示の形成過程のどこで生じたかによって、動機の錯誤と表示行為の錯誤とに分類することができる。

(1) 表示行為の錯誤

効果意思を外部に表示する過程で、意思と表示との間に食い違いが生じた場合である。言い間違いや誤記のような表示上の錯誤と、表示の意味を誤解する内容の錯誤とがある。たとえば、ドルと間違えてユーロと書く場合が前者であり、ユーロとポンドを同価値であると誤解して、1万ユーロのつもりで1万ポンドと表記してしまった場合が後者である。表示行為の錯誤は、意思の不存在、すなわち表示に対応する内心の意思を欠く場合の一つである。

(2) 動機の錯誤(縁由の錯誤)

効果意思を生成する過程に誤解や不注意があった場合である。たとえば、駄馬を受胎した良馬と誤信して購入したというように契約の目的物の性状に関して勘違いをしていた場合や、他に連帯保証人が存在すると信じて保証契約を結んだが実際にはいなかったというように契約内容そのものではなく契約締結にいたった理由ないし前提事情に関して勘違いがあった場合がこれにあたる。動機は意思表示の要素ではないから、動機の錯誤の場合には表示に対応する内心の意思が存在している。つまり、意思の不存在ではない。

〔考察〕限界事例

表示行為の錯誤と動機の錯誤との違いは、具体的な事例において紙一重であるという指摘がある。たとえば、Aがある高名な作家Bのものとされる絵画甲を購入したが、それが贋作であったという場合を考えてみる。Aがその絵画の実物を見て、それがBの真作であると信じて購入したのであれば、その絵画を買う意思はあるが性状に関して錯誤があるので動機の錯誤である。そうではなくて、「絵画甲」を購入するつもりでその絵画(贋作)を購入したというのであれば、目的物の同一性に関して錯誤があるので表示行為の錯誤である。

▼ 民法95条の錯誤

1 法律行為の要素に関する錯誤

錯誤による意思表示は理論的には無効であるが、ささいな錯誤であっても無効を主張できるとするのでは、取引の安全を害する。そこで、民法95条は、「法律行為の要素に錯誤があったとき」に限定して無効とすると規定している。本条が適用されるには、錯誤が軽微なものではなく、「法律行為の要素」に関するもの(要素の錯誤)でなければならない。

判例は、「法律行為の要素」を、①表意者が意思表示の内容の重要な部分とし、この部分について錯誤がなかったなら意思表示をしなかったであろうと考えられるもの(因果関係)、かつ、②意思表示をしないことが一般取引上の通念に照らして(通常人を基準として)もっともであると認められるもの(重要性)と定義する(大判大7.10.3)。

たとえば、ある絵画の贋作を真作と思って購入したという場合には、表意者がその絵画を贋作であると知っていたなら買わなかったであろうから、錯誤と意思表示の因果関係は認められる。そして、一般人にとっても贋作か真作かは重要な要素であるといえるから客観的な重要性も認められる。したがって、贋作か真作かについての錯誤は要素の錯誤である。

〔参考〕要素の錯誤の例

判例によって要素の錯誤とされた例としてどのようなものがあるか。錯誤はその内容によって、人に関する錯誤と物に関する錯誤、同一性の錯誤と性状の錯誤などに分類することができる。

(1) 人の同一性や性状は、契約の内容によっては客観的に重要な意味をもつために要素の錯誤となりうる。たとえば、保証契約における主債務者の同一性に関する錯誤は要素の錯誤となる(大判昭9.5.4)。また、売買契約における買主に関する錯誤や、委任契約における受任者に関する錯誤も場合によっては要素の錯誤となりうる(最判昭29.2.12―買主が国ではなく財団法人だった事案、最判昭40.10.8―代金債権と相殺するつもりが買主が債権者でなかった事案、大判昭10.12.13―受任者を弁護士と誤認)。

(2) 目的物の同一性に関する錯誤は、不動産のような特定物売買においては要素の錯誤となる。目的物の性状・来歴に関する錯誤は、それが客観的な重要性をもつ場合には要素の錯誤となる。物の性状の錯誤が要素の錯誤とされた例として、受胎馬のつもりが駄馬だった場合(大判大6.2.24)、処女鉱のつもりが粗悪鉱だった場合(大判昭10.1.29)、和解における代物弁済契約の目的物のジャムが粗悪品であった場合(最判昭33.6.14)、贋作を真作と信じた場合(最判昭45.3.26)などがある。

2 動機の錯誤の扱い

民法95条の錯誤を意思の不存在、すなわち、表示行為に対応する内心的効果意思がない場合の一種であると捉える立場からは、動機は意思表示の要素ではないからその錯誤は意思の不存在にはあたらず、したがって、動機の錯誤には同条が適用されないことになる。判例もこのような立場を基本として、原則として動機の錯誤を95条の錯誤から除外

する。

しかし、錯誤の事例のほとんどは動機に錯誤がある場合であるから、動機の錯誤について錯誤無効を一切認めないとすることは妥当でない。そこで判例は、動機が相手方に表示されて意思表示(法律行為)の内容となったときには、動機の錯誤も要素の錯誤となりうるとする(大判大3.12.15、最判昭29.11.26)。動機の表示が黙示的にされているときであっても、法律行為の内容となる(最判平元.9.14―財産分与に伴う課税について誤解し、自己に課税されないことを前提に財産分与契約の意思表示をしたという事案)。

〔考察〕一元的構成

現在の学説は、動機の錯誤と他の錯誤とを区別せず、一元的に95条の錯誤に含めて扱う。その理由として、①前述のように動機の錯誤(性状の錯誤)と表示行為(同一性の錯誤)の区別は難しく、どのような場合に動機の表示が要求されるかの判断基準が明確でない。②そもそも錯誤は表示されないものであり(表示されたのであれば錯誤ではない)、動機の錯誤も表示行為の錯誤も表示されないという点では同じであるということが挙げられる。動機の錯誤をすべて錯誤の問題として扱うとなると取引の安全との調整が問題となるが、これについては、要素性の判断において考慮すればよいという主張や、相手方の主観的事情を考慮すべきであるという主張(相手方の認識可能性を錯誤無効の要件とする説)がある。

▼ 錯誤無効の主張

1 表意者からの無効主張

民法95条はただし書で、表意者に重大な過失があったときは、表意者は錯誤無効を主張することができないと定める。「重大な過失」(重過失)とは、ふつうの人なら錯誤に陥ることがないのに、著しく不注意であったために錯誤に陥ったことを言う。したがって、通常の過失(軽過失)であれば、錯誤無効の主張が可能である。なお、表意者に重過失があることの立証責任は相手方にある。

〔解説〕錯誤無効の要件

以上述べてきたことから、判例・伝統的理論による錯誤無効の要件をまとめると、①法律行為の要素に錯誤があること、②表意者に錯誤に陥ったことにつき重過失がないことの二つとなる。学説ではこのほかに、③相手方が表意者の錯誤について悪意または有過失であること(相手方の認識可能性)という要件を付け加える見解が有力である。この見解は、動機の錯誤を95条の錯誤に含める立場(一元的構成)から、表意者保護と取引の安全との調整を相手方の主観的事情を考慮することによって行うべきであると主張する。

〔参考〕相手方が悪意の場合

表意者に重過失がある場合であっても、相手方が表意者の錯誤を知っていたときは、表意者を犠牲にして相手方を保護する必要がないので、95条ただし書の適用がない(表意者は無効を主張できる)とされる。

2 相手方・第三者からの無効主張

表意者以外の者(相手方や第三者)が錯誤無効を主張することは認められるだろうか。95条ただし書は、「表意者は、自らその無効を主張することができない」と規定しており、表意者以外の者であれば主張できるように解釈することもできる。しかし、錯誤無効の実質的な理由が表意者の保護であることを考えると、表意者以外の者からの無効の主張を認めるべきではなく、判例もそのように解する(最判昭40.6.4―表意者に重過失がある場合、最判昭40.9.10―表意者に重過失がない場合)。表意者に重過失がある場合には、結局誰も無効を主張することができないので、意思表示は有効なものとして扱われることになる。

〔解説〕取消的無効

錯誤による無効は、表意者(錯誤者)のみが主張することができる。この点において取消権者のみが主張できる取消しと似ているので、このような無効を取消的無効と呼ぶ。取消しに似ているとはいっても、あくまで無効の一種にすぎず、法定追認(125条)や期間制限(126条)などはない。

〔参考〕債権者代位権にともなう錯誤無効の主張

例外的に第三者からの無効主張を認めた判例がある(最判昭45.3.26)。にせものの絵が本物としてA→B→Cの順に売り渡されたが、Cが錯誤を理由にBC間の売買契約の無効を主張し、さらに、AB間の売買契約についてもBの錯誤を理由に無効を主張して、BのAに対する代金返還請求権を代位行使(423条)したという事案。①第三者(C)が表意者(B)に対する債権を保全する必要がある場合において、②表意者が錯誤を認めているときは、第三者(債権者)は表意者の意思表示の錯誤による無効を主張することができる、と判示した。この無効の主張自体は、債権者代位権によるものではない。学説には、端的に無効の主張自体を債権者が代位行使することを認めればよいとするものがある(債権者代位権の要件を満たさせば足り、②の要件を不要とする)。

3 共通錯誤

共通錯誤とは、契約の当事者双方が共通の錯誤に陥っていた場合を言う。たとえば、買主と売主がともに目的の絵を真作と信じて売買契約を結んだが、それが実は贋作であったという場合(最判昭45.3.26の事案)がこれにあたる。この場合、一方の当事者(買主)に錯誤に陥ったことについて重過失があったとしても、相手方(売主)も同じ錯誤に陥っていたのであるから、相手方には保護すべき正当な利益があるとは言い難い。したがって、学説は、共通錯誤の場合には95条ただし書を適用すべきではないとする。

▼ 民法95条の適用範囲

(1) 身分行為

身分行為については、民法95条は適用されない。婚姻や養子縁組については、人違いだけが無効原因となり、人の性状に関する錯誤は、無効原因とはならない(742条・802条参照)。

(2) 和解契約

和解には、争われている法律関係を確定させる効力がある(696条)。したがって、和解の目的となった係争事項について錯誤がある場合には、民法696条が適用されて錯誤無効の主張は許されない(最判昭38.2.12―裁判上の和解についての判示)。

しかし、争いの対象である法律関係ではなく、和解の前提として争わなかった事項に関して錯誤がある場合には、民法95条の適用がある(大判大6.9.18、最判昭33.6.14)。

〔参考〕民法95条の特則

特別法によって本条の適用が制限・排除される場合は、次のとおり。

(1) 団体法上の特則

基金・株式の引受けについての錯誤無効の主張には期間制限がある。

(2) 電子消費者契約における特例

電子消費者契約(いわゆる電子商取引)におけるボタンの押し間違えは要素の錯誤にあたるが、重大な過失と認定される可能性がある。そこで、電子消費者契約においては、消費者が誤操作によってその意思に反する申込みまたは承諾の意思表示をした場合には95条ただし書が適用されない(常に錯誤無効が主張できる)という特例が設けられている。ただし、事業者が消費者の意思の有無について確認を求める措置を講じた場合には、同規定の適用は排除されない(電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律3条)。

▼ 錯誤と瑕疵担保責任との関係

130馬力の表示がある中古モーターを買ったが、実際にはせいぜい70馬力程度であったという事例を考えてみる。売買の目的物に隠れた瑕疵が存在する場合であるので、売主の瑕疵担保責任(570条)の要件を満たす。それと同時に、目的物の性能に欠陥があることを知らなかったときは、物の性状の錯誤(動機の錯誤の一種)であるから、要件を満たせば民法95条の錯誤となる(大判大10.12.15)。このように、錯誤(95条)と瑕疵担保責任(570条)とが競合する場合、両規定の関係をどのように考えるべきか。

判例は、要素の錯誤となる場合には、瑕疵担保の規定は排除されるとする(前掲最判昭33.6.14)。

しかし、通説は、95条を適用せず、瑕疵担保責任の規定を適用すべきであるとする。瑕疵担保責任には短期の除斥期間が定められているが(570条・566条3項)、錯誤無効には期間制限がなく、取引の安全という観点からは前者のほうが望ましいからである。

▼ 問題演習

国家試験過去問題のなかから理解度チェックに役立つ良問を掲載しています。

 正誤問題

(司法平18-1-1 → 平成18年司法試験民事系第1問選択肢1)

(1) 意思表示の動機に錯誤があった場合、その意思表示の錯誤による無効を主張するためには、その動機が表示されていれば足り、その動機が法律行為の内容となっている必要はない。(司法平24-3-5)

(2) 協議離婚に伴う財産分与契約において、分与者は、自己に譲渡所得税が課されることを知らず、課税されないとの理解を当然の前提とし、かつ、その旨を黙示的に表示していた場合であっても、財産分与契約の無効を主張することはできない。(司法平20-5-エ)

(3) 意思表示の動機の錯誤は、その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり、もしその錯誤がなかったならばその意思表示をしなかったであろうと認められる場合に要素の錯誤となるが、表意者に過失があったときには、表意者は錯誤による無効を主張することができない。(司法平19-1-2)

(4) 意思表示の相手方が表意者の錯誤を認識していた場合であっても、表意者において錯誤に陥ったことについて重大な過失があったときは、表意者は、錯誤による無効を主張することができない。(司法平24-3-1)

(5) 重過失ある表意者が自ら錯誤を理由とする無効を主張し得ない以上、相手方又は第三者は、その無効を主張することができない。(司法平20-5-ウ)

(6) AのBに対する甲土地の売買契約の意思表示について法律行為の要素に錯誤があった場合でも、Aに自らの錯誤を理由としてその意思表示の無効を主張する意思がないときには、Bは、Aの意思表示の無効を主張することはできない。(司法平27-2-4)

(7) 表意者に対して債権を有する者は、その債権を保全する必要がある場合、表意者がその意思表示の要素に関し錯誤のあることを認めているときは、その意思表示の無効を主張し、その結果生ずる表意者の債権を代位行使することができる。(司法平24-3-4)

(8) 婚姻の相手が人違いである場合は、そのことに重大な過失があっても、婚姻の無効を主張することができる。(司法平21-5-1)

(9) 裁判上の和解は、裁判所の関与の下にされるものであるから、これについて錯誤による無効を主張することはできない。(司法平24-3-3)

(10) 和解契約において、代物弁済の目的とした商品の性質に瑕疵があり、和解契約の要素に錯誤がある場合、瑕疵担保責任の規定の適用は排除され、錯誤無効の主張も、和解契約の確定効に反し許されない。(司法平20-5-イ)

(11) 売買の目的物に隠れた瑕疵があり、この点について買主が錯誤に陥っていた場合は、錯誤の規定に優先して、瑕疵担保責任の規定が適用されることになる。(司法平24-3-2)

(12) 被保佐人が、保佐人の同意を得て、自己の不動産につき第三者との間で売買契約を締結したときは、被保佐人がその売買契約の要素について錯誤に陥っており、かつ、そのことにつき重大な過失がない場合でも、その契約の無効を主張することができない。(司法平25-2-イ)

 正解

(1) 誤  (2) 誤  (3) 誤  (4) 誤  (5) 正  (6) 正  (7) 正  (8) 正  (9) 誤  (10) 誤  (11) 誤  (12) 誤

▼ コメント

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コメント: 2
  • #1

    (火曜日, 24 1月 2017 16:42)

    動機の錯誤についてです。私は大学で民法を学んでいるのですが動機と要素の錯誤がいまいち分かりません。私が使っている教科書では「AがBの所有する絵が著名な画家レンブラントの真作であると信じて、Bからこの絵を購入したが、実際にはレプリカであったという事例は動機の錯誤となる」と書かれています。しかし、ここのサイトでは要素の錯誤に分類されていたので少し混乱しています。これはどちらが間違っているのでしょうか?

  • #2

    とおりすがり (水曜日, 25 1月 2017 18:09)

    動機の錯誤と要素の錯誤とは互いに排斥し合う概念ではありません。動機の錯誤であっても、それが法律行為の要素に関する錯誤でなければ民法95条が適用されません。「か」さんのが問題にされている事例は、動機の錯誤のうちそれが法律行為の要素に関するものである典型的事例です。

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