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取得時効の適用範囲

このページの最終更新日 2016年7月23日

▼ 取得時効とは

取得時効とは、権利者らしい状態(占有状態)が一定期間継続することによって権利取得の効果が発生する時効を言う。取得時効は、権利の取得原因の一つである。

たとえば、ある者Aがある土地を所有者として使用している状態が一定期間(10年または20年)経過した場合、その土地が実は他人が所有するものであったとしても、Aは時効によりその土地の所有権を取得することができる。

取得時効には、要件の違いに応じて、長期取得時効(20年の取得時効)と短期取得時効(10年の取得時効)の二つの種類がある。占有者が占有の開始時に善意無過失であるときは、時効完成に要する期間は10年であり、そうでないときは20年となる(162条)。

取得時効の存在理由ないし正当化根拠に関して、かつての学説は、消滅時効の存在理由と統一的にとらえようとしながら、「永続した事実状態の保護」を主な存在理由としてあげていた。しかし、現在の学説は、長期取得時効と短期取得時効とで分けてこれを論じたり、取得時効が機能する局面に応じてその存在理由が異なるものと考えたりする。

〔考察〕取得時効が機能する場面

取得時効という制度が実際に機能するのは、主に次のような場面においてである。

(1) 不動産の二重譲渡において登記を具備しなかった場合

不動産の所有者AからBがその不動産を譲り受けて引渡しを受けたが、登記を移転しないでいたところ、Aがさらに第三者Cに当該不動産を譲渡して登記も移転してしまった。しかし、その後も、第一譲受人であるBが当該不動産を占有し続けたというような場合である。

この場合、Bの占有につき取得時効が成立することによって、Bは、登記がなくても、第三者Cに対して不動産所有権の取得を主張することができる。ここでは、取得時効が対抗要件の不備(登記欠缺)を補うという機能を果たしている。

(2) 不動産取引が無効または不存在であった場合

たとえば、不動産上の権利を売買により取得してその引渡しを受けたが、その売買契約の効力が否定されたために当該不動産の所有権を取得することができなかったような場合、あるいは、売買契約をした事実が裁判官によって認定されないような場合である。

この場合、買主は取得時効を援用することによって、売主に対して不動産所有権の取得を主張することができる。

(3) 境界紛争の場合

自己所有の土地と隣接する土地との境界線について争いが生じた場合に、紛争を解決する手段として取得時効が機能する場合である。

関連事項

▼ 短期取得時効の適用範囲

物の占有者が占有の開始時に善意無過失であった場合、占有状態を10年間継続することによって占有者はその物の所有権を取得することができる(162条2項)。

これが短期取得時効であるが、その適用範囲に関して次のような問題がある。

(1) 取引行為によらない占有取得の保護

短期取得時効の適用が取引行為による占有取得の場合に限定されるかどうかという問題がある。

従来の判例・通説は、民法162条2項の規定上は取引行為によって占有を取得したという要件が要求されていないことを理由に、取引行為によらない占有取得の場合にも短期取得時効の適用があると解する。

これに対して、短期取得時効は取引行為による占有取得の場合にかぎり適用されるとする見解も有力である。この見解は、短期取得時効の存在理由を取引の安全に求める立場から主張されている。

(2) 動産上の権利の短期取得時効

動産については、無権利者を権利者であると誤信して取引した者の権利取得を認める即時取得(善意取得)の制度があるが(192条)、即時取得が認められるのは取引行為によって動産の占有を取得した場合にかぎられる。したがって、取引行為によらない動産占有取得の場合には、取得時効の適否が問題となる。

短期取得時効の適用を取引行為によらない占有についても認める見解に立つときは、動産占有に対する短期取得時効の適用を肯定することができる。

これに対して、短期取得時効の適用を取引行為による占有に限定する見解に立つときは、162条2項と192条の要件がほぼ同じである以上、動産占有に対して短期取得時効の適用を肯定する余地はないに等しいことになる。この見解によると、短期取得時効は、もっぱら不動産取引の安全を図るための制度として位置づけられることになろう。

〔参考〕短期取得時効の沿革

沿革的には、短期取得時効は、即時取得と同じく、取引の安全を保護するための制度である。すなわち、取引行為によって目的物の権利を譲り受けたつもりが、取引の相手方(前主)が無権利者であったために目的物の権利を取得することができない譲受人を保護するための制度として位置づけられていた。そのため、本来、短期取得時効の適用範囲は、「正権原」(権利の譲渡を目的とする行為)にもとづく占有取得の場合に限定されていた。

しかし、現行の民法は、短期取得時効の要件として「正権原」を規定せず、代わりに無過失を要求することとしたため(162条2項)、短期取得時効の適用範囲は取引行為によらない占有取得にまで拡大されることとなった。なお、即時取得に関しても、法文上は短期取得時効と同様に善意無過失を要件としていたが(192条)、解釈によって取引行為による占有取得の場合に適用が限定された(平成16年改正前の民法192条には、「取引行為によって」という文言はなかった)。

また、動産占有の保護に関しては即時取得の制度があるために、短期取得時効はもっぱら不動産占有の保護に関する制度として規定された(平成16年改正前の民法162条2項は、「物」ではなく「不動産」と規定していた)。しかし、判例・学説は、動産占有のうち取引行為によらないものについても短期取得時効によって保護されるべきであると解している。

▼ 取得時効の対象となる権利

取得時効の対象となる権利は、主に所有権であるが(162条)、所有権以外の財産権についても時効による取得が認められている(163条)。しかし、取得時効は、財産権のすべてについて認められるわけではない。

取得時効が成立するためには継続的な権利行使(占有または準占有)がその要件とされており、したがって、取得時効の対象となる権利は、その性質上、継続的な権利行使が可能であるものにかぎられる。

以下、権利の種類ごとに個別に見ていく。

(1) 用益物権

用益物権のうち、地上権永小作権は、土地の占有権限を含むので、取得時効の対象となる。

地役権も、継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるものにかぎり、時効により取得することができる(283条)。通行地役権について「継続」の要件を充足するには、単なる承役地の通行では足りず、要役地所有者によって承役地の上に通路が開設されていなければならない(最判昭30.12.26)。

(2) 担保物権

約定担保物権のうち、抵当権は、目的物の占有をともなわないから取得時効の対象とはならない。これに対し、質権は、目的物の占有をともなうので、時効取得の余地がある。

法定担保物権である留置権先取特権は、法定の要件を充足する場合にだけその成立が認められるべきであるから、これらは取得時効の対象とはならない。

(3) 債権

債権のうち、一回的な給付を目的とするものは、継続的な権利行使をしないので、取得時効の対象とはならない。取消権・解除権などの形成権も、一度の行使によって消滅するから、取得時効の対象とはならない。

債権であっても、不動産賃借権は時効取得することが認めている。

判例は、土地賃借権について、「土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつ、それが賃借の意思に基づくことが客観的に表現されているとき」に、その時効取得が可能であるとする(最判昭43.10.8)。「賃借の意思に基づくことが客観的に表現されている」とは、たとえば、賃料支払いの事実が存在することである。

〔参考〕土地賃借権の時効取得に関する判例

判例によって土地賃借権の時効取得が肯定された事例は、次の三つに類別することができる。

 土地所有者との賃貸借契約が法令違反により無効である場合に賃借権の時効取得を認めたもの―最判昭45.12.15、最判平16.7.13

 無権限の第三者から土地を賃借した場合に賃借権の時効取得を認めたもの―最判昭52.9.29、最判昭62.6.5

 賃貸人に無断で賃借人が転貸借をした場合に転借権の時効取得を認めたもの―最判昭44.7.8

(4) 占有権

占有権は、物の事実的支配にもとづいて認められる権利であるから、その時効取得を問題とする余地はない。

(5) 身分権

身分権は、身分法上の地位にもとづいて認められる権利であるから、その性質上、取得時効の対象にならない。

(6) 知的財産権

知的財産権のうち、著作権については、取得時効成立の余地がある(最判平9.7.17)。これに対して、特許権など、登録によって発生する権利については時効取得することができないと考えられる。

問題演習(国家試験過去問題)

国家試験過去問題のなかから理解度チェックに役立つ良問を掲載しています。

 正誤問題

(司法平18-1-1 → 平成18年司法試験民事系第1問選択肢1)

(1) 所有権以外の財産権についても時効取得は可能であるが、財産権のうち債権に関しては占有を観念できないので、時効取得することはない。(司法平19-5-4)

(2) 土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつ、それが賃借の意思に基づくことが客観的に表現されているときは、土地賃借権の時効取得が可能である。(司法平20-7-ア)

 正解

(1) 誤  (2) 正

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法人法律行為意思表示代理無効と取消し条件と期限期間時効

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