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時効の利益の放棄

このページの最終更新日 2016年7月6日

▼ 時効の利益の放棄とは

時効の利益の放棄とは、時効の利益を受けないという意思を表示することを言う。時効の利益の放棄は、時効の援用と趣旨を同じくする。つまり、時効の利益を受けることを欲しないで、真実の権利関係を認めようとする者の意思を尊重するという理由にもとづいて認められる。

(1) 時効完成前の放棄

時効の利益の放棄が認められるのは時効完成後にかぎられ、時効完成前の放棄は効力を生じない(146条)。時効完成前の放棄が認められないことの理由として、一般に、①時効制度の公益的趣旨に反すること、②債権者が債務者の窮迫状態に乗じて強制的に放棄を約束させるおそれがあること、の2点が挙げられる。

これに対して、時効完成後の放棄は、民法146条の反対解釈を根拠として有効である。

〔参考〕時効完成前の放棄と時効中断事由としての承認との違い

時効完成前の放棄は将来時効が完成してもその利益を享受しないという意思表示であるから、もしそれが認められれば将来時効が成立する余地はなくなるが、時効中断事由としての承認はそれがなされた後に新たな時効が進行するという点で、両者は区別される。

(2) 放棄の法的性質

時効の利益の放棄についても、時効の援用と同様に、各々の時効学説によってその法的意味の捉え方が違ってくる。ただ、時効の援用の場合と異なって、時効の利益の放棄を一方的な意思表示(単独行為)として捉える点については一致している。

時効の利益の放棄を意思表示であると解すると、時効の完成によって時効の利益を享受することができることを知っている状態でなされるのでなければ、放棄の意思表示があるとは言えない。つまり、放棄の意思表示が有効であるためには、放棄者が時効完成を知ったうえでなされる必要がある。

また、意思表示の一般原則にしたがって、放棄をするには放棄者に行為能力処分権限(代理権)がなければならない。時効中断事由としての承認について行為能力・処分権限が不要とされていること(156条)と対照的である。

〔考察〕時効利益の放棄と時効中断事由としての承認の違い

時効利益の放棄は、時効完成後に権利の取得や義務の免除といった法的利益を享受しないことの表明である。すでに生じた時効利益を積極的に放棄するのであるから、それは意思表示によってなされなければならず、また、行為能力や処分権限が要求される。

これに対して、時効中断事由としての承認は、時効完成前、つまりまだ時効利益が生じる前に権利の不存在や義務の存在を確認する行為にすぎない。それゆえ、承認は観念の通知で足り、また、行為能力や処分権限も不要とされる。

(3) 放棄の方法

放棄は、特別の方式を必要とせず、黙示の意思表示であってもよい。債権の消滅時効の完成を知って債務を弁済し、または承認した場合や、取得時効の完成を知って自己の無権利を認めた場合には、黙示の放棄があったものと解される。

また、放棄は、単独行為であるから、相手方の同意を要しない(大判大8.7.4)。もっとも、相手方に対して意思表示をなすことを要する(相手方のある単独行為)。

関連事項

▼ 信義則による援用権の喪失

前述のように、時効の利益を放棄するには時効完成の事実を知ってなされることが必要である。したがって、債務者が債権の消滅時効の完成を知らないで債務の承認や弁済などといった債権の存在を前提とする行為(自認行為)をしても、それを放棄と解することはできない。

しかしそれでは、債務者がいったん自認行為をした後であっても、時効完成を知らなかったとして援用権を行使し(時効完成後の承認は中断にはならない)、自認行為をくつがえすことを認めることになり、不当ではないか。

判例はかつて、時効利益の放棄には時効完成の事実の認識が必要であるとしながら、時効完成後の承認等は時効の完成を知ってなされたものであると推定し、かつ、反証を容易に認めなかった(大判大6.2.19、最判昭35.6.23)。しかし、債務の承認をするときはむしろ時効の完成を知らないのが自然であって、判例はそれとは反対の推定をするものであるという批判がなされた。

このような批判を受けて、判例は従来の見解(推定構成)を変更し、時効完成の事実を知らずに債務の承認をした債務者は、信義則により、援用権を喪失すると解するにいたった(最大判昭41.4.20―「時効の完成後、債務者が債務の承認をすることは、時効による債務消滅の主張と相容れない行為であり、相手方においても債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であると考えるであろうから、その〔債務の承認〕後においては債務者に時効の援用を認めないものと解するのが、信義則に照らし、相当である」)。

▼ 放棄の効果

時効利益の放棄の効果については、次のような点に注意を要する。

(1) 放棄の効果の相対性

時効利益の放棄の効果も、時効の援用と同じく相対的であり、放棄をしなかった者には影響を与えない。たとえば、主たる債務者が放棄しても、保証人や物上保証人などにはその効果が及ばず、依然として保証人らは主たる債務について時効を主張することができる。

〔考察〕時効完成後に保証人が主たる債務につき時効の利益を放棄した場合

主たる債務について時効が完成した後に、保証人が(保証債務ではなく)主たる債務について時効の利益を放棄したが、主たる債務者が時効の援用をした場合、援用・放棄の効果の相対性により、保証人だけが債務を負うことになる。この場合、保証人は、保証債務を履行しても主たる債務者に求償することができず、最終的な負担者となる。この結論が適当でないとするならば、保証人の放棄は主たる債務者が時効を援用しないかぎりで認められると考えるべきである。

(2) 新たな時効の進行

時効の利益を放棄した後は、その時効を援用することができなくなる。

もっとも、放棄がなされるとその時点から時効は再び進行を開始し、再度時効が完成すればその時効を援用することができるようになる(最判昭45.5.21―消滅時効の援用権の喪失に関するもの)。

関連事項

▼ 時効に関する契約

契約当事者間の特約によって、時効に関して民法の規定と異なった内容を定めることができるかという問題がある。

時効期間の延長や障害事由の追加などのように、時効完成を困難にする特約は無効である。時効完成前の放棄が認められないのと同様の理由にもとづく。

これに対して、時効期間の短縮など、時効完成を容易にする特約は有効である(もっとも、不当条項となることがある)。

問題演習(国家試験過去問題)

国家試験過去問題のなかから理解度チェックに役立つ良問を掲載しています。

 正誤問題

(司法平18-1-1 → 平成18年司法試験民事系第1問選択肢1)

(1) 債務につき消滅時効が完成した後に、債務者が債務の承認をした以上、時効完成の事実を知らなかったときでも、以後その完成した消滅時効を援用することは許されない。(司法平20-7-イ)

(2) 時効の完成後に、そのことに気付かないで債務を弁済した債務者は、債権者に対して、弁済金を不当利得として返還請求することができる。(司法平18-21-4)

(3) 債務者が消滅時効の完成後に債権者に対して債務を承認した場合において、その後さらに消滅時効の期間が経過したときは、債務者は、その完成した消滅時効を援用することができる。(司法平25-6-イ)

 正解

(1) 正  (2) 誤  (3) 正

民法総則のカテゴリー

法人法律行為意思表示代理無効と取消し条件と期限期間時効

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