ホーム > 民法総則 > 時効 > 時効の援用


時効の援用

このページの最終更新日 2016年7月6日

【目次】

時効の援用とは

援用の法的性質―時効学説

1 時効学説とは

2 確定効果説(攻撃防御方法説)

3 不確定効果説

4 訴訟法説(法定証拠提出説)

援用権者の範囲

1 判例の一般的基準

2 消滅時効における援用権者の範囲

3 取得時効における援用権者の範囲

援用の効果の相対性

援用の場所・時期・撤回

問題演習

コメント

▼ 時効の援用とは

客観的事実により時効の完成が明らかであったとしても、裁判所はそれだけで時効にもとづく裁判をすることはできない。当事者が時効の利益を受ける意思を表明することが必要であり、これを時効の援用と呼ぶ(145条)。

時効を援用するか否かは、当事者の自由な判断に委ねられる。これは、当事者が時効の利益を受けることを欲しないで、真実の権利関係を認めようとする場合に、その当事者の意思を尊重するという理由による(当事者の良心に配慮した「良心規定」であると言われる)。したがって、たとえ時効完成の要件が満たされていても、当事者が時効を援用しないかぎり、真実の権利者は依然として権利を主張することができる。

時効の援用をすることができる者(援用権者)は「当事者」であるが(同条)、その範囲が問題となる。これについては、後述する。

関連事項

▼ 援用の法的性質―時効学説

1 時効学説とは

時効に関する民法の規定をみると、時効の完成(時効期間の満了)によって実体的な権利の取得や消滅が生じると定めた規定がある。162条と163条が権利を「取得する」と規定し、167条以下で権利が「消滅する」と規定しているのがそれである。

しかし一方で、当事者が時効を援用しなければ、時効を理由として裁判することができない、と145条で規定されており、援用がなければ時効の効果である権利の得喪が発生しないようにも解される。

このように、一見相反するかのような内容の規定を持つ時効制度をどのように理解すべきか、その法的構成について、古くからさまざまな学説が主張されてきた。それらをまとめて時効学説と呼ぶ。

時効学説には、基本的に、時効制度は実体法上の権利の得喪原因を定めたものであると考える実体法説と、時効制度はもっぱら訴訟法上の証拠に関する制度であると考える訴訟法説との二つの立場がある。そして、実体法説はさらに、確定効果説不確定効果説に分かれる。

それぞれの時効学説においては、時効の法的構成についての考え方の違いに応じて、援用の法的性質の捉え方も異なったものとなっている。もっとも、いずれの見解をとるかによって具体的問題の結論に大きな相違があるわけではない。

関連事項

2 確定効果説(攻撃防御方法説)

確定効果説は、時効の完成によって時効の効果(権利の得喪)は実体法上確定的に生じ、当事者の援用は弁論主義の要請にもとづく訴訟上の攻撃防御方法の提出にすぎないとする見解である。民法起草者や旧判例(大判大8.7.4)の立場である。

この説は、162条・167条等が実体的な権利の得喪について明記していることに忠実な解釈をする。しかし、この説に対しては、次のような批判が考えられる。

まず、①この説によると時効の完成によって援用の有無を問わずに権利得喪の効果が確定的に生じることになるが、そうすると、当事者が時効を援用しない場合に実体法上権利を失っている者が裁判上権利者として扱われることになるという矛盾が生じてしまう。

また、②訴訟過程で時効完成の事実が明らかになった場合であっても、民法145条にしたがって、それだけでは時効による裁判をすることができず、なお当事者の援用を要するとするのであれば、援用に単なる攻撃防御方法の提出を超えた意味を与えていることになる。

さらに、③民法145条を弁論主義を定めた規定であると解すると、なぜ特別に時効についてだけ自明の原則を規定したのかという疑問が生じる。

3 不確定効果説

不確定効果説は、時効が完成してもその効果はまだ発生しないか、あるいは不確定的にしか発生しないが、時効の援用(または放棄)によってはじめて効果の発生(または不発生)が確定すると考える見解である。

この説は、さらに次の二つの説に分かれる。

(1) 停止条件説(判例・多数説)

この説は、時効が完成してもただちに権利得喪の効果が生じるものではなく、援用によってはじめて確定的に効果が生じると解する。つまり、援用を時効の効果発生の停止条件と考える。現在の判例の立場である(最判昭61.3.17―特殊な事案に関するもの)。

この説は、時効の援用が当事者の意思を顧慮する制度(良心規定)であることに適合的な解釈であることや、時効にかかった債務を履行した場合の説明が容易である(他の説では、一度消滅した債権が復活し、弁済によってまた消滅するという技巧的な説明になる)ことから、多数説となっている。

ただし、この説によると、時効が完成しても援用があるまで権利の得喪が生じないと解するので、162条・167条等の文言(権利の得喪を明記)から離れてしまうという問題がある。

なお、停止条件説の考え方からさらにすすんで、端的に、援用を時効の完成と並ぶ時効の効果発生の要件とする学説もある。

(2) 解除条件説

この説は、時効の完成によって権利得喪の効果が一応は生じるが、時効利益の放棄によってその効果が遡及的に消滅すると解する。つまり、放棄を時効の効果を消滅させる解除条件と考える。

この説は、実体的な権利の得喪を明記している162条・167条等の規定に忠実である。

しかし、この説に対しては、時効の援用の位置づけが不十分であるという批判がある。すなわち、145条は援用を時効を理由とする裁判をするための不可欠の条件とするが、この説によると、援用がなくても、放棄をしないかぎり、時効の効果が認められることになってしまう。

いずれの見解によっても、援用は、実体法上の意思表示として位置づけられる。ただ、停止条件説では援用が積極的に権利関係を変動させる手段であるのに対して、解除条件説では援用は権利関係を確定させる手段であるというように、援用の法的意味に軽重がある。

関連事項

4 訴訟法説(法定証拠提出説)

この説は、時効制度を純粋に訴訟法上の制度であると解し、援用を時効という「法定証拠」を提出する行為であるとする。法定証拠とは、裁判官の判断を法的に拘束する証拠である。

この説は、時効の存在理由を真権利者・既弁済者の証明困難の救済にあるとし、時効をもっぱら訴訟法上の制度(法定証拠としての証拠力)として理解するので、時効完成によって実体法上の権利得喪が生ずることを前提としていない。つまり、実体的な権利の得喪を明記している162条および167条の規定を完全に無視している。それゆえ、現行法の解釈としてこの説を採用することはむずかしい。

▼ 援用権者の範囲

1 判例の一般的基準

時効を援用することができる者(援用権者)は誰か。民法145条は「当事者」であるとするが、その範囲が問題となる。

判例は、「時効によって直接に利益を受ける者(およびその承継人)」という一般的基準によって当事者(援用権者)かどうかを判断する。「時効によって直接に利益を受ける者」の範囲は、当初、時効によって権利を取得する者(占有者)または義務を免れる者(債務者・連帯債務者・保証人・連帯保証人)に限定されていた(大判明43.1.25)。しかしその後、今日までのあいだに、その範囲を拡大してきている。

なお、援用権者が時効を援用したという事実は、援用権者でなくても主張することができる。

2 消滅時効における援用権者の範囲

どのような者が消滅時効の援用権者に含まれるか。

時効によって消滅する債権の債務者連帯債務者が「時効によって直接に利益を受ける者」にあたることは異論がない。債務者・連帯債務者以外にどのような者が援用権者となるかが問題である。

(1) 援用が認められた例

判例は、次のような者について債権の消滅時効を援用することを認める。

 保証人連帯保証人(大判大4.7.13―保証人、大判昭7.6.21―連帯保証人)

 物上保証人(最判昭42.10.27―譲渡担保、最判昭43.9.26―抵当権)

 抵当不動産の第三取得者(最判昭48.12.14)

 仮登記担保権に劣後する抵当権者(最判平2.6.5)

 仮登記担保権の設定された不動産の第三取得者(最判昭60.11.26―代物弁済予約、最判平4.3.19―売買予約)

 詐害行為の受益者(最判平10.6.22)

保証債務は、主たる債務の消滅にともない消滅する(附従性)。したがって、①保証人連帯保証人は、主たる債務が時効消滅することによって自己の債務も消滅するという意味で、時効によって直接に利益を受ける者にあたるといえるから、主たる債務の消滅時効の援用権者となることができる。

物上保証人は自己の物を他人の債務の担保に供する者であり、③抵当不動産の第三取得者は抵当権の設定された後に不動産を取得した者である。いずれも、被担保債権が消滅することによって、自己所有の不動産に対する担保権の実行を免れることができる。これらの者が被担保債権の消滅時効の援用権者となりうるかについて、判例は当初これを否定していたが(前掲大判明43.1.25)、現在では、物上保証人も被担保債権の消滅により直接利益を受ける者であることを認めてその援用権を肯定している。⑤仮登記担保権の設定された不動産の第三取得者についても同様である。

仮登記担保権に劣後する抵当権者は、ある不動産に仮登記担保権(たとえば、売買予約にもとづく所有権移転請求権保全の仮登記)が設定された後に、同一の不動産について抵当権の設定を受けた者である。仮登記にもとづく本登記がなされる過程で抵当権が抹消される関係にある(不動産登記法109条)から、仮登記担保権者の予約完結権の時効消滅によって直接に利益を受ける者にあたる。

詐害行為の受益者とは、ある債権の債務者が自己の財産を減少させる行為(詐害行為)をしたときにその財産を譲り受けた者をいう。債権者が詐害行為取消権を行使することによって、詐害行為の受益者は詐害行為によって得た利益を失うという関係にある。かつての判例は詐害行為の受益者の援用権を否定していたが(大判昭3.11.8)、現在の判例は、詐害行為の受益者は債権者の債権の消滅によって詐害行為によって得た利益の喪失を免れることができるから、その債権の時効消滅によって直接に利益を受ける者にあたるとしている。

(2) 援用が認められなかった例

一方、消滅時効の援用が認められなかった例として、先順位の抵当権が設定されている不動産の後順位抵当権者は、先順位抵当権者の被担保債権の消滅時効を援用できないとしたものがある(最判平11.10.21)。判例は、先順位抵当権者の被担保債権の消滅による配当額の増加は抵当権の順位の上昇による反射的(間接的)利益にすぎないという理由で、後順位抵当権者は、時効によって直接利益を受ける者に該当しないとした。

たしかに、後順位抵当権者は、抵当不動産の第三取得者や仮登記担保権に劣後する抵当権者の場合と異なり、被担保債権の時効消滅によって権利喪失を免れる意味で直接に利益を受ける者ではない。しかし、抵当不動産の第三取得者や仮登記担保権に劣後する抵当権者の場合も、実質的には先順位の権利者と後順位の権利者との利害対立である点で後順位抵当権者の場合と共通していると言える。後順位抵当権者についてだけこれらの者と異なった扱いをすることの適否については慎重な考慮を要する。

(3) 一般債権者の場合

AはBに対して金銭債務を負っており、また、物上保証人としてA所有の土地にCのために抵当権を設定していたが、Cの有する被担保債権について消滅時効が完成した。一般債権者Bは、Cの被担保債権の消滅時効を援用することができるか。

一般債権者には、債務者の財産を責任財産とする債権の消滅時効について固有の援用権は認められない(大決昭12.6.30)。しかし、債務者が無資力であるときには、一般債権者は、自己の債権を保全するのに必要な限度で債務者の援用権を代位行使することが認められている(前掲最判昭43.9.26)。

3 取得時効における援用権者の範囲

ある不動産について所有権の取得時効が完成しているとき、目的不動産の占有者本人(および承継人)が自己の所有権の取得時効を援用することができることには問題がない。取得時効の援用権者については、占有者本人以外にどのような者が占有者の取得時効を援用することができるのか、とくに不動産賃借人に他人の所有権の取得時効の援用が認められるかが問題となる。

(1) 賃借不動産の所有権の取得時効

AがBからC所有の土地を賃借しており、賃貸人Bがその土地を時効取得することができる場合、賃借人AはBの土地所有権の取得時効を援用することができるか。

この問題に関する最高裁判例はない。賃貸人Bが土地を時効取得することで、賃借人Aは土地所有者Cからの請求による土地賃借権の喪失を免れることができるが、これを直接の利益と考えるか、間接的な利益にすぎないと考えるかによって賃借人Aに賃貸人Bの取得時効の援用を認める立場と認めない立場とに分かれる。

(2) 賃借不動産の敷地所有権の取得時効

Y所有の土地の上にAが建物を所有しており、Aがその土地の所有権を時効取得することができる場合、Aの当該建物を賃借しているXはAの土地所有権の取得時効を援用することができるか。

判例は、建物賃借人Xは係争土地の取得時効の完成によって直接に利益を受ける者ではないとして、(建物賃貸人Aの)土地所有権の取得時効を援用することはできないとする(最判昭44.7.15)。

建物賃貸人Aが土地所有権を時効取得することによって、建物賃借人Xは当該建物の収去による賃借権の喪失を免れるという利益があると考えれば、建物賃借人Xの援用権を肯定することもできる。

▼ 援用の効果の相対性

援用の効果は、人的範囲に関して絶対的ではなく相対的である。すなわち、援用権者が複数人いる場合、時効を援用した者についてのみ時効の効果が生じ、援用しない他の者にはその影響が及ばない。このことを援用の効果の相対性とか援用の相対効と呼ぶ。援用の効果の相対性は、時効の利益を享受するかどうかを援用権者の意思に委ねるという援用制度の趣旨にもとづく。

以下、援用の効果の相対性が問題となる場面である。

(1) 多数当事者の債権債務関係の場合

ある債権の消滅時効が完成した場合において、債務者Aがその債権の消滅時効を援用せず、保証人Bだけが時効を援用した。

保証人Bとの関係では、主たる債務は消滅して保証債務も消滅するが(附従性)、債務者Aとの関係では主たる債務は消滅せず、債権者は依然としてAに対して債務の履行を請求することができる。

(2) 共同相続の場合

AがX所有の土地建物を20年占有し続けてその不動産の所有権の取得時効が完成した後、A死亡によってYらが共同相続した。Yは、単独でXに対して不動産所有権の取得時効を援用することができるか。

判例は、時効の完成により利益を受ける者は自己が直接に受けるべき利益の存する限度で時効を援用することができるとし、被相続人Aの占有により取得時効が完成した場合、その共同相続人の1人は自己の相続分の限度においてのみ取得時効を援用することができるにすぎないと解する(最判平13.7.10)。

関連事項

▼ 援用の場所・時期・撤回

これまで述べてきたこと以外に時効の援用に関して問題となることがらとして次のようなものがある。

(1) 援用の場所

時効の援用は裁判上でしかできないのか、それとも裁判外でもできるのかが問題とされている。

確定効果説や訴訟法説の立場からは、援用は裁判所に対する訴訟行為(攻撃防御方法または法定証拠の提出)であるから、その性質上、裁判上でだけすることができる(裁判上の援用)。これに対し、不確定効果説に立てば、援用は実体法上時効の効果を発生ないし確定させる意思表示であるから、裁判外でなすこと(裁判外の援用)も可能である。

両見解の違いが如実に現れるのは、援用権者が裁判外で時効を援用したときである。裁判外の援用を認める立場に立つと、援用権者でない者であっても、裁判外の援用があったという事実を主張することができる。

傍論で裁判外の援用を肯定した判決がある(大判昭10.12.24)。

(2) 援用の時期

援用は、事実審の口頭弁論終結時までにしなければならない(大判大12.3.26)。

(3) 援用の撤回

判例は、援用は撤回することができるとする(大判大8.7.4―訴訟上の攻撃防御方法であるから)。

▼ 問題演習

国家試験過去問題のなかから理解度チェックに役立つ良問を掲載しています。

 正誤問題

(司法平18-1-1 → 平成18年司法試験民事系第1問選択肢1)

(1) 抵当不動産の第三取得者は、当該抵当権の被担保債権について、その消滅時効を援用することができる。(司法平23-6-2)

(2) 詐害行為の受益者は、詐害行為取消権を行使する債権者の債権について、その消滅時効を援用することができない。(司法平23-6-3)

(3) 後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権について、その消滅時効を援用することができる。(司法平23-6-4)

(4) 被相続人の占有により取得時効が完成した場合において、その共同相続人の一人は、自己の相続分の限度においてのみ、取得時効を援用することができる。(司法平23-6-1)

(5) AのBに対する売買代金債権について時効期間が経過した後、Bが当該代金債務を承認した場合であっても、その債務を被担保債権とする抵当権を設定した物上保証人Cは、その債務について消滅時効を援用することができる。(司法平18-21-1)

 正解

(1) 正  (2) 誤  (3) 誤  (4) 正  (5) 正

▼ コメント

 このページの内容に関するご質問やご指摘などをご自由に書き込むことができます。また、掲示板のほうにも、本サイトへのご意見・ご要望をぜひお寄せください。

サイト内検索

サイト内検索

スポンサードリンク