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取消し

このページの最終更新日 2015年12月26日

【目次】

取消しとは

1 意義

〔解説:形成権とは〕

2 民法120条以下の適用範囲

〔参考:総則規定が適用されない「取消し」〕

〔考察:取消しと撤回〕

取消権者

1 行為能力の制限による取消しの場合

〔解説:包括承継人・特定承継人とは〕

2 詐欺・強迫による取消しの場合

取消しの方法

取消しの効果

1 遡及的無効

〔解説:不当利得の返還義務(703条・704条)〕

〔参考:取消しによる利得返還義務と同時履行の関係〕

2 制限行為能力者の返還義務

〔参考:現存利益の証明責任〕

取り消すことができる行為の追認

1 追認の意義

〔考察:民法122条の意義〕

2 追認の時期

法定追認

1 意義

2 要件

取消権の期間制限

1 民法126条の趣旨

2 民法126条の期間制限の法的性質

問題演習

コメント

▼ 取消しとは

1 意義

制限行為能力者が行った法律行為は、一応は有効なものとして扱われるが、一定の者(取消権者)が取り消すことによって、はじめにさかのぼって無効となる。詐欺・強迫による意思表示についても同様である。このように、取消しとは、一定の事由が存在する場合において、一応は有効なものとして扱われる法律行為(意思表示)を取消権者の意思表示によって遡及的に無効とすることを言う。取消しをする権利(取消権)は、形成権の一種である。

取消しは、一定の者(表意者)を保護するために認められる制度である。したがって、取消しができる者(取消権者)の範囲は限定されており、また、取消権を放棄(追認)することによって法律行為を有効なものに確定することができる。そして、表意者の保護に優先すべき一定の事情が生じた場合(法定追認、時の経過)には、取消権は消滅する。

〔解説〕形成権とは

形成権とは、一方的な意思表示によって法律関係を変動させることができる権利を言う。形成権の好例は取消権や解除権であるが、そのほかにも、代金減額請求権(563条1項)、地代等増減請求権(借地借家法11条1項)、建物買取請求権(同法13条1項)などがこれに属する。

2 民法120条以下の適用範囲

ここで取り扱うのは、民法120条以下の規定が適用される取消し、すなわち、行為能力の制限および詐欺・強迫を理由とする取消しである。それ以外は、条文上「取消し」という表現が用いられていても、120条以下の規定は適用されない。

〔参考〕総則規定が適用されない「取消し」

条文上「取消し」と表記されているが、総則の取消しに関する規定が適用されないものとして次のようなものがある。

(1) 意思表示でないものの取消し(民法6条2項、10条、14条、18条、32条等)

(2) 無権代理行為の取消し(115条)、詐害行為の取消し(424条1項)、夫婦間の契約の取消し(754条)

(3) 身分行為の取消し(743条以下、803条以下等)

〔考察〕取消しと撤回

取消しと似ているが区別される概念に撤回がある。取消しは、法律行為に一定の瑕疵がある場合にすでに発生している法律行為の効力を消滅させるものである。これに対して、撤回は、法律行為の効力が発生する前に当事者の意思によって意思表示をなかったものにすること、あるいは、瑕疵のない法律行為の効力を消滅させることと定義される。民法上、撤回の語が用いられている例として、407条2項、521条1項、524条、530条、540条2項、550条、919条1項、989条1項、1022条などがある。これらの規定は、従前「取消」と表現されていたが、平成16年改正によって「撤回」の語に改められた。しかし、撤回の定義が上述のようなものであるとすると、115条の「取消し」や1027条の「取消し」も本当は撤回と表記するのが正しいことになる。

▼ 取消権者

1 行為能力の制限による取消しの場合

行為能力の制限を理由とする取消しの場合の取消権者は、①制限行為能力者、②代理人、③承継人、④同意をすることができる者である(120条1項)。

(1) 制限行為能力者本人

まず、法律行為をした制限行為能力者本人が単独で取り消すことができる。取消し自体が法律行為の一種であるが、取り消すことができる取消しになるわけではない。取消しは原状に戻すことであるから、制限行為能力者にとって特別に不利益となるものではない。成年被後見人であっても単独で取り消すことは可能であるが、取消時に意思能力が回復している必要がある。

(2) 制限行為能力者の代理人または同意権者

この場合の代理人には、未成年者や成年被後見人の法定代理人(親権者、後見人)のほかに、取消権行使の代理権が付与された保佐人や補助人も含まれる。同意権者は、保佐人のほか、補助人も同意権を付与されているときはこれに含まれる。

(3) 制限行為能力者の承継人

承継人の好例は相続人である。その他、包括受遺者(包括承継人)、契約上の地位を譲り受けた者(特定承継人)がある。

〔解説〕包括承継人・特定承継人とは

包括承継人とは、他人の法律上の地位をすべて一括して承継する者であり、相続人や包括受遺者がこれにあたる。これに対して、特定承継人とは、他人の特定の権利ないし地位を承継する者を指す。たとえば、売買によって売主から所有権を取得した買主は、売主の特定承継人である。

関連事項

2 詐欺・強迫による取消しの場合

詐欺または強迫を理由とする取消しの場合の取消権者は、①瑕疵ある意思表示をした者、②代理人、③承継人である(120条2項)。

(1) 瑕疵ある意思表示をした者

詐欺または強迫によって意思表示をした者のこと。

(2) 瑕疵ある意思表示をした者の代理人または承継人

代理人には、法定代理人のほか、任意代理人も含まれる。もっとも、任意代理人は、取消権行為の代理権が与えられている場合にかぎられる。

承継人は、包括承継人および特定承継人である。包括承継人は、相続人・包括受遺者のほか、合併における存続会社が含まれる。特定承継人の場合、取消権を行使できる承継人であると言えるためには、目的物の権利を譲り受けるだけでは足りず、取消権または契約上の地位そのものを承継した者でなければならない。

▼ 取消しの方法

取消しは、行為の相手方に対する一方的な意思表示によって行う(123条)。つまり、取消しは、相手方のある単独行為である。取消しの意思表示には、なんらの方式を必要としない。

取消しは、行為の相手方に対してしなければならない。たとえば、Aが詐欺によってBに土地を売却した後に、Bがその土地をCに転売したという場合、Aはその土地を取り戻すために取消しの意思表示を売買契約の相手方であるBに対してしなければならない。Bに対して取消しの意思表示をせずに、直接、第三者Cに対して取消しの効果を主張することはできない。

▼ 取消しの効果

1 遡及的無効

取り消された法律行為(意思表示)は、当初から無効であったものとみなされる(121本文)。これを遡及的無効と呼ぶ。その結果、法律行為から生じた権利・義務がはじめにさかのぼって消滅し、取消し前に履行がなされていたときには、利益を得た当事者はその利益を返還する義務が生じる(703条・704条)。

行為能力の制限および強迫を理由とする取消しは、すべての第三者に対して主張することができる(第三者保護規定が存在しない)。これに対して、詐欺を理由とする取消しは、善意の第三者に対抗することができない(96条3項)。

〔解説〕不当利得の返還義務(703条・704条)

法律上の原因がないのに、他人の財産・労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼすことを不当利得と言う。衡平上、不当利得による受益者は、受領した利益を返還しなければならないが、受益者(返還義務者)の知・不知によってその返還の範囲が異なる。善意の受益者は、「利益の存する限度において」返還する義務を負う(703条)。しかし、悪意の受益者は、受けた利益に利息を付して返還しなければならず、さらに損害賠償責任を負う(704条)。

〔参考〕取消しによる利得返還義務と同時履行の関係

双務契約の取消し前に両当事者がそれぞれの債務を履行していた場合、いずれの当事者も利得返還義務を負うが、それらの義務は同時履行の関係に立つ(最判昭28.6.16―未成年者の取消し、最判昭47.9.7―詐欺による取消し)。

2 制限行為能力者の返還義務

法律行為にもとづいてなされた給付は、法律行為の取消しによって法律上の原因を欠き、不当利得となる。受益者は民法703条・704条の規定により返還義務を負うのが原則であるが、民法は制限行為能力者を保護するための特則を置く。民法121条ただし書は、制限行為能力者は取り消された行為によって「現に利益を受けている限度において」返還の義務を負うと定める。

「現に利益を受けている限度」とは、利益がそのままあるいは形を変えて残っている場合のほか、それを消費することによって他の財産の減少を免れた場合をも含む。たとえば、受領した金銭を生活費や債務の弁済などの必要な支出に充てた場合は現存利益がある(大判昭7.10.26)。しかし、ギャンブルなどで無駄に浪費してしまった場合には現存利益はない(大判昭14.10.26)。

「現に利益を受けている限度」は、703条の「利益の存する限度」と同じ意味であると解されており、現存利益(現受利益)と呼ばれる。悪意の受益者はすべての利益を返還しなければならないとするのが不当利得の一般原則(704条)であるが、121条ただし書により、制限行為能力者であれば、悪意であっても、現存利益の返還で足りる。

〔参考〕現存利益の証明責任

703条の場合、利益が現存しないことの証明責任は受益者が負う(最判平3.11.19)。121条ただし書の場合にも、制限行為能力者が現存利益がないことの証明責任を負うと解されている。この点に関して、準禁治産者(浪費者)の相手方(返還請求権者)が現存利益があることの証明責任を負うとした判例がある(前掲昭14.10.26)。しかし、これは浪費者という特殊な者(浪費者は浪費するのが通常である)に関する判例であって、一般的に相手方が証明責任を負うと判示したものと解することはできない。

▼ 取り消すことができる行為の追認

1 追認の意義

追認とは、一応は有効である行為を確定的に有効とする意思表示である。取り消すことができる行為は、取消権者が追認した後は取り消すことができない(122条本文)。つまり、追認とは、取消権の放棄を意味する。

追認は取消権の放棄であるから、取消権を有する者(120条に規定する者)だけがなしうる。また、追認の方法は、取消しと同様に、相手方に対する意思表示によって行う(123条)。

〔考察〕民法122条の意義

民法122条はその本文において、改正前まで、追認の遡及的有効を規定していた。しかし、追認は一応有効な行為を確定的に有効にするにすぎないのであるから、遡及効を認めるのは無意味である。そのような規定が置かれていたのは、民法起草者の誤解によるものと言われる。また、同条ただし書は、「追認によって第三者の権利を害することはできない」と規定している。しかし、通説は、追認する前も法律行為は有効であり、また、第三者とは対抗関係に立つと考えるべきであるから、ただし書は無用の規定であると考える。

2 追認の時期

追認できるのは取消権者である(122条本文)が、次のような要件がある(124条)。

(1) 取消しの原因となっていた状況の消滅

追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅した後にしなければ無効である(124条1項)。制限行為能力者は行為能力者になった後でなければ追認できないし、詐欺・強迫を受けた者は詐欺・強迫の状況を脱した後でなければ追認を行うことができない。取消しの原因たる状況が止まないうちは、依然、取消権によって保護する必要があるのでその放棄を認めるべきではないからである。

成年被後見人が行為能力を回復した後に追認する場合は、自己の行為を了知した後でなければ追認をすることができない(同条2項)。成年被後見人は自分のしたことを認識してないことが多いので、特別に自己の行為についての認識を要求したものである。

法定代理人、保佐人および補助人が追認する場合には、これらの者自身には取消原因がないので、以上のような制限はない(同条3項)。

(2) 取消権の発生の認識

追認は取消権の放棄であるから、取消権の存在、すなわち、行為を取り消すことができることを知ってなされることが必要である(大判大5.12.28)。取消権の発生の認識は、すべての追認権者に共通する要件である。

▼ 法定追認

1 意義

取り消すことができる行為について一定の事実が生じたときは、追認があったものとみなされる(125条)。これを法定追認と言う。社会通念上、追認と認められる客観的事実があったときに追認を擬制することによって、取引の安全を図るものである。黙示の追認とすることとの違いは、追認の意思や取消権発生の認識がなくても追認の擬制がなされることにある。

法定追認とされる事実(行為)は次のとおり。

【法定追認事由(125条所定)】

① 全部または一部の履行(1号)

② 履行の請求(2号)

③ 更改(3号)

④ 担保の供与(4号)

⑤ 取り消すことができる行為によって取得した権利の全部または一部の譲渡(5号)

⑥ 強制執行(6号)

①履行は、追認権者(取消権者)が債務者として履行した場合のほか、相手方の履行を債権者として受領した場合を含む(大判昭8.4.28)。④担保の供与も同様。

⑥強制執行は、追認権者が執行した場合にかぎられる(大判昭4.11.22)。②履行の請求も同様。

2 要件

追認可能な状態(124条参照)において125条所定の事由が発生したことである。たとえば、未成年者が行為能力者となった後に相手方の履行を受領した場合に追認が擬制される。追認の意思があったかどうか、取り消すことができることを知っていたかどうかを問わない(大判大12.6.11)。ただし、成年被後見人だった者に関しては自己の行為についての了知を必要とする(124条2項参照)。

ただし、追認権者(取消権者)が125条所定の行為をする際に異議をとどめたときは、追認が擬制されない(同条但書)。

▼ 取消権の期間制限

1 民法126条の趣旨

法律行為が取り消すことができる状態にあるかぎり、法律関係はいつまでも不安定なままである。そこで、法律関係をできるだけ早く確定させるために、取消権を行使することができる期間が制限されている。取消権を行使せずにその期間が満了すると、取消権は消滅する。

民法126条は、取消権の期間制限として短期と長期の2種類のものを定めている。

(1) 短期の期間制限

取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないときに消滅する(126条前段)。追認をすることができる時(124条参照)は、取消権者ごとに異なる。たとえば、制限行為能力者であれば行為能力者になった時であるが、法定代理人であれば行為が行われた時あるいは取り消しうる行為を知った時である。そうすると、法定代理人の取消権が期間満了によって消滅しても、制限行為能力者の取消権は残るような状態がありうる。そのような場合には、法律関係の早期安定をはかるために、一方の取消権が消滅すれば他方の取消権も消滅すると解されている。

(2) 長期の期間制限

取消権は、短期の期間制限によって消滅しない場合でも、行為の時から20年を経過したときに消滅する(126条後段)。

2 民法126条の期間制限の法的性質

民法126条は、取消権は「時効によって消滅する」と定めており、判例も本条の期間制限の法的性質を消滅時効であると解している。しかし、取消権の内容を考えると消滅時効とすることには疑問がある。なぜなら、取消権は形成権であって、権利者の一方的な意思表示によって実現できるのであるから、時効の中断を観念することができないからである。

そこで、取消権のような形成権についての期間制限は除斥期間であると解すべきことになるが、それでもまだ、126条の期間制限が除斥期間であると断定するには早い。取消権が行使されると、それによって不当利得返還請求権が発生するが、本条の期間制限の対象が取消権自体か、それとも、それにもとづく返還請求権かによって結論が異なるからである。

(1) 二段階構成説(判例)

126条の期間制限は取消権自体の行使できる期間を定めたものであって、取消しによって発生した返還請求権については、取消権とは別個に10年の消滅時効(167条1項)に服すると解する見解である。判例の立場である。もつとも、判例は期間制限の性質を消滅時効と解しているが、学説は除斥期間と解する。

(2) 一段階構成説

126条の期間制限は、単に取消権を行使することだけでなく、それにもとづく返還請求権の行使にまで及ぶと解する見解である。この見解によれば、対象となる権利の性質によって期間制限の性質も変わりうる。すなわち、取消しによって請求権が発生するときには期間制限の性質は消滅時効であるが、請求権が発生しないときは除斥期間となる。

二段階構成説にしたがうと、取消しをした後、さらに10年間、返還請求権が存続しうることになる。これには、一段階構成説の立場から、法律関係の早期安定をはかるという126条の趣旨にそぐわず、また、そもそも取消権は返還請求のための手段にすぎないのであるから独立して期間制限に服させることは適当でないといった批判が考えられる。

しかし、126条の趣旨を行為が無効となるかどうかを早く確定させることであると解するのであれば、取消権の行使によって無効に確定するのであるから、二段階構成としても問題ない。

▼ 問題演習

国家試験過去問題のなかから理解度チェックに役立つ良問を掲載しています。

 正誤問題

(司法平18-1-1 → 平成18年司法試験民事系第1問選択肢1)

(1) 制限行為能力者のした契約について、制限行為能力者及びその法定代理人が取消権を有するときは、契約の相手方も取消権を有する。(司法平24-2-1)

(2) 被保佐人がした行為で取り消すことができるものについて、保佐開始の原因が消滅していない状況において、被保佐人がこれを取り消した場合、当該行為は遡及的に無効となる。(司法平18-32-1)

(3) 未成年者がその法定代理人の同意を得ないで行った法律行為を取り消す場合において、行為の相手方が確定しているときは、その取消しは、相手方に対する意思表示によって行う。(司法平23-5-1)

(4) 詐欺による意思表示をした者が、相手方から、1か月以上の期間を定めて、その期間内に当該意思表示を追認するかどうかを確答すべき旨の催告を受けた場合、その期間内に確答を発しないときは、その行為を追認したものとみなされる。(司法平18-32-3)

(5) 未成年の時における不動産の売買により代金債務を負担した者は、成年に達した後にその代金を支払った場合であっても、売買の当時未成年者であったことを理由としてその売買を取り消すことができる。(司法平22-3-エ)

(6) 強迫を受けてした動産売買契約を取り消した売主は、取消し前に買主から当該動産を善意かつ無過失で買い受けた者に対して、所有権に基づいて、当該動産の返還を求めることができる。(司法平18-32-5)

 正解

(1) 誤  (2) 正  (3) 正  (4) 誤  (5) 誤  (6) 誤

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