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無効と取消しの異同

このページの最終更新日 2015年12月21日

▼ 無効と取消しの意味

● 法律行為の効力の否定

当事者が法律行為をなすことによって当事者が意図したとおりの法律効果が発生するのが原則である。しかし、なんらかの理由によって、当事者が法律行為によって実現しようとした法律効果が法的な観点から認めがたい場合もある。そのような場合、当該法律行為の効力を否定するという方法によって、その法律効果の発生を阻止することが行われる。民法は、法律行為の効力を否定する仕方として、無効と取消しという二つの制度を用意する。

無効は、法律行為の効力が当初から否定される。これに対して、取消しは、法律行為の効力が一応は認められるが、取り消されると当初にさかのぼって効力が否定される。無効と取消しの具体的な異同については後述する。

無効または取消しによって法律行為の効力が否定されると、その法律効果である権利義務は発生しなかったことになる。その結果、まだ義務を履行していない当事者は、無効または取消しを理由に、相手当事者からの請求に対してその履行を拒むことができる。また、すでに義務を履行した当事者は、相手当事者が得た利益を不当利得としてその返還を請求することができる(703条、704条)。無効・取消しの制度には、法律行為の拘束力を否認することによって消極的に当事者を保護するという側面もある。

● 無効・取消しの多義性

ふつう「無効」「取消し」と言うときは、上述したように、法律行為に何らかの瑕疵があるためにその効力が否定されることを意味する。民法119条以下の規定が適用されるのは、この意味での無効・取消しである。

一方、これとは違う意味で「無効」「取消し」という語が用いられることがある。たとえば、無権代理の場合に法律行為の効果の帰属先が不確定の状態になることを講学上「無効」と表現したり、民法424条や754条において「取消し」という表現が用いられていたりする。これらの無効・取消しは、法律行為の瑕疵を原因とするものではないので、民法119条以下の規定は適用されない。

▼ 無効原因と取消原因

どのような原因によって法律行為が無効あるいは取り消しうるものとされるかは、民法総則の各所で学ぶことがらである。ここでは、無効原因あるいは取消原因とされるものを列挙するにとどめる。

(1) 無効原因

民法において法律行為あるいは意思表示が無効とされる場合をまとめると、次のようになる。

【無効原因】

① 公序良俗違反(90条)

② 強行規定違反(91条あるいは90条)

③ 心裡留保において相手方が悪意または有過失の場合(93条ただし書)

④ 虚偽表示(94条1項)

⑤ 錯誤(95条)

⑥ 既成条件(131条1項2項)

⑦ 意思無能力

⑧ 法律行為の内容が不確定である場合

⑨ 法律行為の内容が原始的不能である場合 

民法90条・131条は法律行為が無効となると規定しているが、93条・94条・95条を見ると、無効となるのは意思表示であると定めている。法律行為の無効と意思表示の無効とは、論理的には区別できるであろうが、一般には区別して扱われていない。このことは、取消原因に関しても同様である。

(2) 取消原因

同様に、法律行為あるいは意思表示が取り消しうるとされる場合をまとめてみる。

【取消原因】

① 行為能力の制限(5条2項、9条本文、13条4項、17条4項)

② 詐欺・強迫(96条1項)

〔考察〕無効と取消しの割当て  ある法律行為ないし意思表示を無効とするかそれとも取り消しうるものとするかは、立法政策の問題であると考えられている。大まかには、公序良俗違反のように公益的な観点から法律行為の効力を否認すべきである場合には無効とされ、行為能力の制限のように特定個人の利益を保護するために効力を否認すべきである場合には取消しとする傾向がある。ところで、民法は錯誤による意思表示を無効と定めている。表意者を保護する趣旨であるならば詐欺・強迫による意思表示の場合のように取消しとすればよいのに、なぜ無効となっているのか。これは、表示行為に対応する効果意思を欠くときは意思表示は無効であると考えられたためである。心裡留保や虚偽表示とともに、錯誤は効果意思を欠く場合であるので無効であると定められた。しかし、現在では伝統的な意思表示理論にもとづくこのような無効・取消しの割当ては支持されておらず、解釈上、錯誤無効の内容を取消しに近づけて考える立場が有力である(いわゆる取消的無効)。

▼ 無効と取消しの比較

無効と取消しの違いを明確にするために、いくつかの観点から両者を比較してその相違点をまとめてみると、次の表のようになる。

  無効 取消し
効力 最初から当然に効力がない。(特定人の主張を要しない。) 取り消すまでは有効であるが、取り消されると行為時にさかのぼって効力を失う(遡及的無効、121条本文)。
主張権者 誰でも主張できる。 特定人のみ主張できる(120条)。
主張期間 いつでも主張できる。 追認することができる時から5年、または行為の時から20年の期間制限がある(126条)。
追認の可否 追認できない。(なお、119条ただし書参照) 取消権者の追認によって確定的に有効となる(122条)。

以上のような無効の内容は、民法が本来予定しているものである。しかし、ある種の原因による無効については、その内容を変更することが解釈によって行われている。たとえば、錯誤無効(95条)については、解釈によって主張権者が表意者に限定されている。期間制限などの点に関しても、取消しに近づけて解釈すべきであるとする考え方もある。このように、法律行為が無効とされる場合であっても、無効の内容はすべての場合について同じではなく、無効原因によって異なる内容を有するような相対的なものであることに注意を要する。

▼ 無効と取消しの二重効

ある法律行為が無効の要件と取消しの要件の両方を満たす場合がありうる。たとえば、成年被後見人が意思無能力の状態で法律行為をしたり、詐欺によって動機の錯誤に陥りながら意思表示をした場合である。このように無効と取消しとが競合するような場合に、両者の関係をどのように捉えるべきかという問題が生じる。

論理的には、無効な行為は取り消すことはできない(無効な行為は存在しないのであるから、取り消す余地がない)と考えるのが素直であるように思える。しかし、現在の学説は、そのように考えない。無効と取消しの要件をいずれも満たす場合には、いずれかを選択的に主張することができると解するのが通説である。これを無効と取消しの二重効と呼ぶ。

問題演習(国家試験過去問題)

国家試験過去問題のなかから理解度チェックに役立つ良問を掲載しています。

 正誤問題

(司法平18-1-1 → 平成18年司法試験民事系第1問選択肢1)

(1) 相手方に欺罔された結果、法律行為の要素に錯誤が生じ、その錯誤により意思表示をした場合には、錯誤による意思表示の無効を主張することも、詐欺による意思表示の取消しをすることもできる。(司法平26-2-エ)

 正解

(1) 正

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