無効

このページの最終更新日 2015年12月22日

▼ 無効の態様

● 無効の原則的内容

無効とは、当事者が法律行為によって意図した法律効果が当初から発生しないことを言う。法律行為の無効は、①いつでも、②誰からでも、③誰に対しても、主張することができる。これか無効の原則的な内容であって、公序良俗違反による無効(90条)や強行規定違反による無効(91条ないし90条)はこのような内容の無効である。

● 相対的無効

無効は、誰に対しても主張することができる。つまり、法律行為の当事者に対してだけではなく、第三者に対しても無効を主張することができるのが原則である(絶対的無効)。しかし、明文の規定あるいは解釈によって、特定人に対しては無効を主張できないとされる場合がある。民法94条2項が虚偽表示による無効を善意の第三者に対して主張することができないと定めており、また、同規定が93条ただし書の場合にも類推適用されると解されているのがその例である。このように、無効主張の相手方が制限されているような無効を相対的無効と呼ぶ。

〔参考〕絶対的無効と相対的無効  絶対的無効・相対的無効という概念は、無効主張の相手方の範囲に関して用いられることが多いが、それだけとはかぎらない。無効の主張権者などに関しても、絶対的無効・相対的無効という概念が用いられることもある。共通するのは、原則的な内容の無効を絶対的無効と呼び、内容的に制限が加えられた無効を相対的無効と呼んでいることである。

● 取消的無効

無効は、誰でも主張できるのが原則である。もっとも、無効が特定人を保護することを目的とする場合には、その者以外からの主張を認める必要はない。民法95条は錯誤による意思表示を無効とするが、これは意思と表示の不一致を無効と考える立場に立つものである。しかし現在では、錯誤無効は、表意者保護の観点から、表意者以外の者が主張することはできないと解されている(最判昭40.9.10)。意思無能力を理由とする無効についても、同様である。

このように、錯誤無効や意思無能力による無効は、表意者のみ主張することができる。特定人のみ主張できるという点が取消権者のみが主張できる取消しと似ているので、このような無効を取消的無効と呼ぶ。

なお、無効は、いつでも主張することができる。しかし、学説のなかには、無効の場合にも、民法126条を類推適用するなどして、主張できる期間を制限すべきであるとする見解も存在する。

〔考察〕その他の無効の種類  無効は、上記のほかにも、さまざまな観点から分類することができる。

(1) 確定無効と不確定無効  無効の効果は、確定的であるのが原則である(確定無効)。これに対して、無権代理行為や他人物売買の無効(効果不帰属)は、追認によって後から有効とする(本人に効果を帰属させる)ことができる(不確定無効)。

(2) 当然無効と裁判上の無効  無効は、法律上当然に効果が発生しないのが原則である(当然無効)。これに対して、会社設立の無効など(会社法第828条)は、訴えをもってのみ主張することができ、主張権者や主張期間に法律上の制限がある(裁判上の無効)。

▼ 無効行為の追認

● 民法119条の趣旨

民法119条本文は、「無効な行為は、追認によっても、その効力を生じない」と規定している。無効な行為は、当初から効力を生じないことが確定しており、当事者の意思によってそれを有効とすることは認められないという趣旨である。

また、同条ただし書は、「当事者がその行為の無効であることを知って追認をしたときは、新たな行為をしたものとみなす」としている。新たな行為は当事者が追認した時から効力を生じ、追認の時点で新しい行為をするときと同じ要件を満たしていなければならない。

● 遡及的追認の可否

無効行為を追認できないとする趣旨は、公序良俗違反や強行規定違反による無効についてはよくあてはまる。公益的理由によって客観的に無効とされる行為を当事者の意思によって有効とすることは認められるべきではないからである。

しかし、虚偽表示や錯誤、意思無能力などを理由とする無効については、表意者からの遡及的追認が認められるべきであると解されている。無効が当事者を保護することを目的とする場合であれば、その当事者の追認によって無効行為を当初から有効として扱っても不都合はないからである。もっとも、追認の遡及効によって第三者の利益を害することはできない。

〔考察〕不確定無効における追認 無権代理の場合における無効(不確定無効)については、本人の追認によつて遡及的に有効となることが民法116条に明記されている。他人物売買における処分の無効についても、真の権利者が追認することによって処分時にさかのぼって有効となると解されている(最判昭37.8.10)。

● 無効行為の追認の要件

無効行為の追認は、新たな行為をするのと同様に扱われるのであるから、追認の時点で成立要件・有効要件を満たしていなければならない。

公序良俗違反または強行規定違反による無効は、法律行為の内容にかかる状況が変化しないかぎり、追認をしても有効とはならない。

虚偽表示による無効の場合には、両当事者の追認がなければ有効にはならない。しかし、錯誤や意思無能力による無効の場合には、一方当事者の追認があれば有効となると解されている。

▼ 一部無効

法律行為の内容の一部に関して無効原因がある場合に、無効の評価は法律行為のどの範囲にまで及ぶのかという問題がある。法律行為全体が無効となることもあれば、無効原因に関わる部分ないし条項のみが無効となることもある。後者の場合を一部無効と呼ぶ。

(1) 明文の規定がある場合

法律行為の内容の一部に関し無効原因が存在する場合に、一部無効とするべきか全部無効とするべきか、その判断方法が問題となる。明文の規定が存在するときは、それによる。たとえば、利息制限法1条1項は、金銭消費貸借契約における利息に関して一定利率を超える場合にその超過部分だけを無効としている。

〔参考〕民法上、無効の範囲を定めている規定として、133条1項、278条1項、360条1項、410条1項、580条1項、604条1項などがある。

(2) 明文の規定がない場合

明文の規定が存在しないとき、どのような基準にもとづいて無効の範囲を決定すべきかが問題となる。よく取り上げられる基準として、①無効原因が存在する部分とその他の部分を分離することが可能か、②一部無効としても規制の目的を達成しうるかどうか、③契約の拘束力を維持することが当事者の意思に反しないか、といったものが挙げられる。

一般に、私的自治への介入は必要最小限度にとどめるべきであるとする立場から、無効な部分を取り除いたうえで、できるだけ契約の効力を維持すべきであると考えられている。しかし、契約を強制することが当事者の意思に明確に反していたり、一部無効では規制の目的を達成するこができなかったりするようなときには、契約全体を無効とすべきである。

〔考察〕最判昭30.10.7  契約内容の一部に関して無効原因が存在する場合に契約全体を無効とした判例であって、芸娼妓契約に関するものである。芸娼妓契約は、親が借金をして(金銭消費貸借契約)娘を芸者や売春婦として働かせてその返済に充てる(稼働契約)という二つの部分からなる。稼働契約部分は公序良俗に反し無効である。そして、親の借金は実質的には娘の稼働に対する報酬を前借りしたものであるから、金銭消費貸借契約部分と稼働契約部分とは密接に関連して互いに不可分の関係にある。したがって、契約の一部である稼働契約の無効は、契約全部の無効をきたす。

▼ 無効行為の転換

● 無効行為を別の法律行為として扱うこと

当初の法律行為が要件を欠くために無効であっても、他の種類の法律行為としての要件を備えている場合に、後者の法律行為として有効に扱うことを無効行為の転換と言う。約束手形の振出しが無効である場合にそれを準消費貸借契約(588条)として有効に扱うことや、無効な地上権設定契約を賃貸借契約として有効に扱うことなどが、無効行為の転換の例として挙げられる。また、明文の規定によって認められている例として、秘密証書遺言が無効とある場合に自筆証書遺言として有効とするもの(971条)がある。

無効行為の転換は、一部無効の理論と同様に、法律行為の内容を修正して当事者が意図した内容と完全には一致しない法律効果を認めるものである。もっとも、一部無効は部分的な修正にとどまるのに対して、無効行為の転換は別の種類の法律行為として扱うという点が異なる。

無効行為の転換は、私的自治に介入して、当事者が当初意図した行為の効果とは別の効果を与えるものであるから、その認否を慎重に決めなければならない。無効行為と他の法律行為とが事実上同じ目的を達成できるものであって、当事者がもし無効を知っていたなら他の法律行為としての効果を意欲したであろう場合にかぎり認められるべきである。

● 要式行為への転換

要式行為への転換も、その方式を要求した法の趣旨に反しないかぎりにおいて認められる余地がある。たとえば、秘密証書遺言から自筆証書遺言への転換(971条)のように、意思表示を慎重・明確にするために方式が要求されている場合には転換が可能である。しかし、手形行為のように法が一定の方式以外を認めない趣旨である場合には、転換は認められない。

要式行為への転換がとくに問題となるのは、認知、養子縁組といった身分行為についてである。この点に関して、判例は、虚偽の嫡出子出生届(無効)について、認知届としての効力を有する(大判大15.10.11―旧戸籍法、最判昭53.2.24―新戸籍法)が、養子縁組としての効力はない(最判昭49.12.23)とする。

〔参考〕身分行為の転換に関する判例

(1) 嫡出でない子について、その父が、これを嫡出子とする出生届または嫡出でない子としての出生届をした場合、その各届は認知届としての効力を有する(最判昭53.2.24)。

(2) 自己の非嫡出子をいったん他人の嫡出子として届け出させた後に、その他人の代諾によってその子と養子縁組をしても、認知としての効力は認められない(大判昭4.7.4)。

(3) 他人の子を自己の子として嫡出子出生届を出しても、その出生届をもって養子縁組届とみなすことはできない(最判昭25.12.28、最判昭56.6.16)。

(4) 婚姻相手の女性の子を自己の養子にするつもりで認知の届出をし、その後、その女性と婚姻したとしても、認知届をもって養子縁組届とみなすことはできない(最判昭54.11.2)。

問題演習(国家試験過去問題)

国家試験過去問題のなかから理解度チェックに役立つ良問を掲載しています。

 正誤問題

(司法平18-1-1 → 平成18年司法試験民事系第1問選択肢1)

(1) 錯誤により無効な契約であっても、表意者がその行為の無効であることを知って追認をしたときは、行為の時にさかのぼってその効力を生ずる。(平成21-5-4)

(2) 所有権に基づく土地明渡請求訴訟において、被告は、原告の所有権取得行為が原告の錯誤によって無効であることを主張立証すれば、請求棄却判決を得ることができる。(司法平18-32-2)

(3) Aの所有する土地をBが錯誤により購入し、Bが当該土地を占有するCに対して所有権に基づき明渡しを求めた場合、Bにおいて錯誤による意思表示の無効を主張する意思がないときは、Cは、当該土地の売買契約が無効であることを主張して、その明渡しを拒むことはできない。(司法平25-5-ウ)

(4) 賭博の勝ち負けによって生じた債権が譲渡された場合において、債務者が異議をとどめずに債権譲渡を承諾したとき、債務者は、当該債権の譲受人に対し、当該債権の発生に係る契約の公序良俗違反による無効を主張することができない。(司法平25-5-イ)

 正解

(1) 誤  (2) 誤  (3) 正  (4) 誤

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