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婚姻の無効と取消し

このページの最終更新日 2016年5月5日

▼ 民法総則における無効・取消しとの違い

婚姻については、身分行為としての特殊性から、民法総則の無効および取消しに関する規定が適用されないと解するのが通説である。民法も、婚姻が無効となる場合および取り消すことができる場合を限定している(742条、743条)。

(1) 無効の違い

婚姻のような身分行為は、当事者の身分関係に重要な変更をもたらすから、当事者本人の意思がなにより重視される。意思を欠く身分行為は、すべて無効であると解される(意思主義)。

また、身分行為については民法90条が適用されないと解されている。たとえば、重婚や近親婚は公序良俗に違反する行為であるといえるが、無効原因ではなく取消原因である(公益的取消し)。

(2) 取消しの違い

婚姻の取消しは、民法総則における取消しと異なり、原則として遡及効がない(748条1項)。婚姻のような身分行為は生活事実をともなうのであって、それを無視することはできないからである。また、婚姻の取消しは訴え(または調停の申立て)の方法による(744条1項本文、747条1項、家事審判法18条)。

▼ 婚姻の無効

● 婚姻の無効原因(742条)

民法742条は、婚姻が無効となる原因を、①人違いその他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないとき(1号)、および、②当事者が婚姻の届出をしないとき(2号)に限定する。

このうち、②の婚姻の届出をしない場合については、そもそも届出は婚姻が成立するための要件なのであるから、届出がない以上、婚姻は不成立であると解するのが通説である。この立場からすると、本条の2号が意味を持つのはもっぱらただし書の部分である。すなわち、739条2項の要件を欠く届出が誤って受理されたとしても、婚姻の効力には影響しない。

通説によれば、婚姻の無効原因は、①の婚姻意思がない場合にかぎられる。たとえば、当事者間に婚姻意思の合致がないにもかかわらず、第三者または相手当事者が勝手に婚姻届を作成・提出した場合は、婚姻意思のない婚姻として無効となる(大判大9.9.18)。

婚姻意思とは何かについては、別のページで解説している。なお、「人違い」とは、婚姻相手の同一性を誤ることである。相手の属性について誤りがあった場合は、それが詐欺によるものであったときに婚姻取消しが問題となる。

● 無効の性質・効果

婚姻の無効の性質については、次のような議論がある。

(1) 当然無効説

判例・通説によると、無効な婚姻は、判決や審判を待たずに当初からその効力を生じない(当然無効)。したがって、婚姻無効の訴えがなくても、利害関係人は相続回復請求など他の訴訟における前提問題として婚姻無効を主張することができる。

(2) 形成無効説

これに対して、婚姻は判決・審判がなされるまで効力を有するが、無効判決・審判によって遡及的に効力を失う(形成無効)とする見解も訴訟法学者から有力に唱えられている。この見解によれば、婚姻無効とする判決・審判がないかぎり、誰も婚姻無効を主張することができないことになる。

いずれにせよ、婚姻が無効とされると、その婚姻の効力ははじめから生じなかったことになる。その結果、無効な婚姻の当事者間に生まれた子は嫡出性を否定される。これは、婚姻の取消しの場合には嫡出子としての地位を失うことがないのと対照的である。

● 無効な婚姻の追認

民法は無効な婚姻の追認について規定していないので、その可否が問題となる。

この点について判例は、(事実上の)夫婦の一方が他方の意思に基づかないで婚姻届を作成・提出した場合においても、届出時に夫婦としての実質的生活関係が存在しており、後に他方の配偶者が届出の事実を知って追認したときは、婚姻は追認によりその届出の当初にさかのぼって有効となると判示している(最判昭47.7.25―他人の権利の処分において民法116条本文が類推適用される場合との類似性を指摘する)。

なお、無効な身分行為の追認は、定まった方式が要求されず、また、黙示のものであってもよい(最判昭27.10.3)。

▼ 婚姻の取消し

● 婚姻の取消原因

民法は、次のような場合に婚姻の取消しを認める。

① 婚姻障害がある場合(744条1項本文) ― すなわち、不適齢婚(731条違反)、重婚(732条違反)、再婚禁止期間内の婚姻(733条違反)、近親婚(734条から736条までの規定の違反)

② 婚姻が詐欺または強迫による場合(747条1項)

①は公益的理由から婚姻の取消原因とされている場合であって、この場合の取消しを公益的取消しと呼ぶ。②の場合の取消しは瑕疵ある意思表示をした当事者を保護するための取消しであるから、これを私益的取消しと呼ぶ。私益的取消しは、追認の余地とその行使に短期間(3ヶ月)の制限がある点が公益的取消しと異なる(745条2項、747条2項)。

なお、未成年者の婚姻において父母の同意を得ないこと(737条違反)は、取消原因とはされていない(744条1項参照)。したがって、父母の同意を欠く婚姻であっても、いったん届出が受理されると取り消すことができない。

● 婚姻取消しの訴えと取消権者

婚姻の取消しは、家庭裁判所に対する訴え(または調停の申立て)によって行うことを要する(744条1項本文、747条1項、家事審判法18条)。身分関係は画一的に定めるべきであるから、身分関係を変動させる取消しは対世効のある判決(人事訴訟法24条)によることとされている。

取消権者、すなわち婚姻取消しの訴えを提起することができる者が法定されている。

(1) 公益的取消しの場合の取消権者

婚姻障害がある婚姻の取消し(公益的取消し)の場合は、婚姻の各当事者、その親族、検察官である(744条1項)。これらの者に加えて、重婚を理由とする取消しの場合は先の婚姻の配偶者(当事者の配偶者)、再婚禁止期間内の婚姻を理由とする取消しの場合は前の婚姻の配偶者(前配偶者)もそれぞれ取消権者となる(同条2項)。

検察官に取消権が与えられているのは、当事者が婚姻を取り消そうとしないときでも、公益的見地から取り消すことができるようにするためである。ただし、検察官は、当事者の一方が死亡した後は取消権を失う(744条1項ただし書)。

(2) 私益的取消しの場合の取消権者

不適齢者が適齢に達した後の婚姻の取消しの場合は当該不適齢者だけ(745条2項)、詐欺・強迫による婚姻の取消しの場合は詐欺・強迫を受けた当事者だけが取消権を有する(747条1項)。

● 取消権の消滅

取消原因が存在する婚姻であっても、次のようなときには婚姻を取り消すことができなくなる。

① 不適齢婚において、不適齢者が婚姻適齢に達したとき(745条1項)

② 再婚禁止期間内の婚姻において、前婚の解消もしくは取消しの日から6ヶ月を経過し、または、女が再婚後に懐胎したとき(746条)

③ 重婚において、先婚が解消したとき、または、後婚が離婚によって解消したとき

④ 詐欺・強迫による婚姻において、詐欺を発見もしくは強迫を免れた後3ヶ月を経過し、または追認をしたとき(747条2項)

上記①と③について説明を補足する。

(1) 不適齢者が適齢に達した後の婚姻の取消し

不適齢婚において不適齢者が婚姻適齢に達したときは、もはや公益に反する婚姻とは言えなくなるので、取消権は消滅する(745条1項)。

ただ、不適齢者本人にだけ、適齢に達した後も取消権が留保される。ようやく精神的に成熟した本人に婚姻が適切であったかどうかを判断する猶予期間を与えるためである。

この取消しは、私益的な理由で認められるものであるから、詐欺・強迫による婚姻の取消しと同様に、一定期間(適齢に達してから3ヶ月)の経過または追認によって消滅する(745条2項)。

(2) 重婚における後婚の取消し

先婚が相手方配偶者の死亡または離婚によって解消した場合は、後婚の瑕疵(重婚状態)が治癒されるので、後婚を取り消すことができなくなる。

後婚が相手方配偶者の死亡によって解消した場合は、後婚は取り消すことができる(744条1項ただし書の反対解釈)。後婚が有効であるとすると後婚配偶者に相続権が認められることになるので、それを否定するために取消しを認める必要があるからである。

これに対して、後婚が離婚によって解消した場合には、特段の事情がないかぎり、後婚の取消しをすることはできない(最判昭57.9.28)。

● 婚姻取消しの効果

一般の法律行為の取消し(121条参照)とは異なり、婚姻の取消しには遡及効がない(748条1項)。したがって、取り消されるまでの婚姻関係は有効に存在していたことになり、婚姻の取消し前に出生した子は取消し後も嫡出子としての地位を失わない。婚姻中の成年擬制の効果(753条)や日常家事債務についての連帯責任(761条)も消滅しない。

もっとも、婚姻によって得た財産・利益については、不当利益に関する一般原則(703条・704条)に準じた取り扱いがなされる(748条2項・3項)。すなわち、婚姻取消しの原因について善意の当事者は現存利益を返還すればよいが、悪意の当事者は得た利益の全部を返還しなければならず、さらに相手方善意のときは損害賠償責任を負う。

婚姻の取消しは、将来に向かってのみ婚姻関係が消滅する点で離婚に類似する。そこで、民法は、婚姻の取消しについて離婚に関する規定を準用する(749条)。

〔参考〕民法749条が婚姻の取消しについて準用する規定は、728条(姻族関係の終了)、766条(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)、767条(離婚による復氏等)、768条(財産分与)、769条(離婚による復氏の際の権利の承継)、790条1項ただし書(子の氏)、819条2項3項5項6項(離婚の場合の親権者)である。

〔考察〕直系姻族間での婚姻は、離婚による姻族関係の終了後であっても禁止される(735条、728条1項)。これに対して、婚姻の取消しによる姻族関係の終了の場合には禁止する規定がないので問題となる。婚姻の取消しの場合も離婚と同様に婚姻障害となるとする説、詐欺・強迫を理由とする取消しにかぎり婚姻障害にならないとする説、婚姻取消しの場合はすべて婚姻障害とならないとする説がある。

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